それでも俺は(1/2)
今年のGW最終日。
街中は夜遅くまで、いつもの週末以上の人で溢れかえっていた。
けれど、この場所にはそんな雰囲気はまるで感じられない。
ちとせと晋平のCM撮影が行われている、都内の某スタジオ。
普段なら全く人気のないそのスタジオの駐車場に、なぜか龍の姿があった。
ここしばらくは暖かい日が続いていたけれど、急に冷え込んだこの日。
薄手のジャケットを羽織った龍は、駐車した自分の車の横に立ってタバコをくゆらせている。
左手に嵌めている腕時計に視線をやると、もうすぐ10時になる所だった。
ここに来る途中で佐藤さんにも確認してみたけれど、まだ撮影は続いているらしい。
「スポンサー側も、かなり力入れてるからな〜。全くの新製品やから、気合いの入れようも半端やないし」
「…………そう、ですか。分かりました。すみません、佐藤さん。わざわざ確認までしてもらって」
「それはかまわんのやけどな。……龍、お前何でまた急にちとせのコト迎えに行ったりしてるんや?」
「う……」
佐藤さんとの電話を、何とか適当にごまかして切った後。
龍は、雲が出ていて月すら見えない夜空を見上げながらポツリと呟く。
「あーあ。何やってるんだろうな、俺は」
分かってはいた。
ちとせ、お前の視線が‥‥心が俺に向けられている事は。
そして晋平。
お前が、ちとせを思っている事も―。
全部分かっていたのに。
「‥‥‥‥‥」
いまさら、なのかも知れない。
自分の心から目を背けて、ちとせとも晋平ともまっすぐ向き合おうとしなかったのは‥‥‥俺自身。
誰より大切で、誰より守りたかった二人を傷つけたのも‥‥俺、だった。
それでも、今。
いつ撮影が終わるのかも分からないちとせを、こうして待っている自分がいる。
十代のガキじゃあるまいし、と苦笑が漏れたが帰る気にはならなかった。
『どうしても今日中にちとせに会いたい』
今、俺の心の中にあるのは、その言葉だけ。
ちとせに会って、もうずっと前から俺の中でくすぶっていた『想い』を、俺の『本心』を彼女に伝えたかった。
今度こそ、間違えない。
ちとせ、晋平。
俺は、まだ間に合うだろうか。
→あとがき
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