花月夜(1/2)
今日、私は瑠禾のマンションに遊びに来ている。
最近お菓子作りに凝っているという瑠禾お手製の、特大シュークリームの山をどうにか攻略した後。
私たちは、グランドピアノが置いてある部屋へ移動した。
(……瑠禾、何てキレイ……)
私のリクエストに応えて、シューマンのトロイメライを奏でている瑠禾。
部屋のライトはついていなくて、天窓から差し込む満月の優しい光がスポットライトのように彼を照らしている。
あまりに幻想的な光景に言葉もなく見とれていると、やがて最後の音が響いて……空気に溶けるように消えていった。
「スゴイ!……ものすごくキレイだったよ、瑠禾!」
すっかり興奮してはしゃぐ私を、瑠禾は満足そうに見つめている。
「……アリガト。じゃあ、次はコレ」
そう言って瑠禾の指先から奏でられたメロディーは。
「瑠禾?……この曲ってまさか……」
「そう。トロイメライの新曲」
先月末に売り出した新曲は、発売日がちょうど私の誕生日直前とあってトロイメライ初のバースデーソングになった。
『女の子』から『大人の女性』へと変わっていく彼女へ、彼氏からのラブソングでもある。
その新曲を、瑠禾はピアノ用にアレンジして弾いているのだ。
「新曲は、みんなからのプレゼントだから。……こっちはちとせのためだけにアレンジした、僕からのプレゼント」
演奏を続けながらも、瑠禾の視線はまっすぐに私を捉えて放さない。
「瑠禾……。ありがとう。ホントに、うれしい…」
私は感激して熱くなった胸を押さえながら、瑠禾が目線で合図してくるのに合わせて歌い出した。
瑠禾の柔らかなピアノの音色と私の歌声が一つになって、満月のスポットライトの下で色あざやかな花となる。
その夜、私と瑠禾はお互いの心にまで寄り添うように、いくつもの花を咲かせ続けたのだった−。
→あとがき .
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