幸せな時間(1/4)
朝から降り続いていた雨は、日が傾く頃になってやっと上がってくれた。
まだ濡れている路面。
遊歩道脇に植えられた木々の緑も、夕日を反射してキラキラと輝いている。
そんな中。
俺とちとせちゃんは、俺達が暮らすマンションに続く遊歩道をノンビリと歩いていた。
ずっと雨が降っていたせいか、吹いてくる風はヒンヤリとしていて。
俺の左手とちとせちゃんの右手。
自然に繋がれた手から伝わってくるお互いの温もりは、とても優しくて心地良かった。
俺は、繋いだ手にギュッと力を込めてみる。
ちとせちゃんは最初は驚いて、だけどすぐに握り返してくれた。
「ちとせちゃん?」
いたずら心を刺激されて、ヒョイっとその顔を覗き込めば。
「もう、櫂ってば。ちゃんと前見てないと、水溜まりにはまっちゃうよ?」
ねえ、ちとせちゃん。
‥‥きみの顔が少しだけ赤いのは、夕日のせいだけじゃないよね?
いまさら、些細な事だよな。
俺達は付き合ってるんだし、一緒に暮らしてもいる。
でも、だからこそなのかな?
付き合っていく中で「些細な事」をこうして一つずつ積み重ねていく。
ちとせちゃんと、その時間を共有している自分。
『幸せだな』
心の底から、そう思った。
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