幸せはここにある(2/3)
トロイメライがいつも使っているレコーディングスタジオで。
矢内さんが焼き上がったばかりのCDをデッキにセットするのに合わせて、俺はそっと壁に背を預けた。
流れてきたのは、この前レコーディングを終えたばかりのトロイメライの新曲。
俺のギターと、櫂のベース、瑠禾のピアノ、龍のドラム‥‥そしてちとせの歌声が一つに溶け合ってトロイメライの音色が溢れ出す。
ちとせの声が紡いでいるのは、俺が初めて書いた恋愛をテーマにした詞。
「‥‥‥‥‥‥」
ちとせと出会った頃。
『ギターの事では、誰にも負けたくねえ』
『そのために努力しろってんなら、どんな事だってやってやる』
音楽が、トロイメライが好きなだけだったのにいつの間にか肩肘を張っていたあの頃の俺。
そんな俺の心にも、どういうワケだかちとせの声だけはスンナリ届いちまった。
(‥‥‥‥何っつーか、もう理屈じゃねーんだよな)
ちとせの声も笑顔も、その存在が。
今の俺にとっては、誰よりも何よりも愛しくて。
自分がこんなにも誰かを愛せるなんて、ちとせに出会えなきゃきっとずっと知らないままだった。
‥‥‥‥別に、矢内さんに言われたからってワケじゃねーけど。
(俺も、ずいぶん変わったよな‥‥)
だけど、こういう俺も案外悪くねーだろ?
そう思わせてくれたのはちとせ、お前なんだぜ?
俺は、俺のすぐ隣で新曲に聴き入っているちとせの姿に目を細めて小さく笑う。
それから。
俺自身もゆっくりと目を閉じた。
ちとせの歌声と、トロイメライの最高の音を俺のすべてで感じるために。
→あとがき
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