まさかゼクシィより先にこっちを買うとは思ってなかったよ。
そうまだ見ぬわが子に話しかけながら幸せそうに丸いお腹を抱えて笑うママタレントが表紙の雑誌をなでてみた。「妊娠したらすぐ読む本」そう書いてあるあの雑誌だ。
未だにふわふわした気持ちでいる。そして少し気恥しい。
いつもきっちり来る生理が遅れて、なんとなく検査薬を試してみたらバッチリと線が2つ浮かび上がってきた。
もう付き合って8年にもなるし、周りだって結婚し始めてるし、男の繋心はすこし早いって感じるかもしれないけど私からしたら適齢期だからきっと結婚することになるんだろうなって思った。
万が一、億が一にも繋心が逃げ出すようなことがあっても私はこの子の鼓動を聞いてしまったからサヨナラするとかは考えられない。ああ、私も母親になるんだな。そう思うと心の奥がそわそわしてきて、それでも不安は沢山あって、不安でいっぱいだけど、不安でいっぱいだからこそ繋心に早く会いたいと思った。
連絡ならしておいたし、「なるべく早くうちにいく」と連絡はきたけれど今は後輩達の指導に夢中だから何時になるか分かんないな。土曜日の昼下がりは時間がすぎるのがとても遅い。


ピンポンというチャイムの音で目が覚めた。
どうやら眠っていたみたいだ。妊娠してからひどく眠い。少しだけあいたカーテンの隙間から西日がさして眩しい。
ドアを開けると待ち望んでいた繋心が立っている。
練習からそのまま来たのかな。ジャージだし、汗ばんでるし。私が「話があるから来れる?」なんて意味深なメッセージ送ったからか顔は少し緊張した顔をしている。

「おう」
「ん、おつかれー!はいってよ。」
「で、話って何なんだよ。」
「まあとりあえず、なかはいれば?」
うん、直球だね。ああどうしよう。私まで心臓がバクバクしてきた。
繋心はいつものように私の部屋にはいるとベットに寄りかかるようにドカッと座った。なかなか口を開かず言い淀む私に、目線で早くと訴える繋心。それ、怖いよ結構。

「あのさ?まどろっこしい言い方苦手だからズバッというけど、私妊娠したの。」
「そうか。妊娠か。…妊娠?」
「そう。妊娠。」
「妊娠…妊娠か…」

ふーっと大きなため息をついた繋心。
あれ、その反応って万が一のパターンなのかな。一瞬で私の顔が曇った。まあ、それを繋心が見逃すはずもなく焦った顔で恐る恐る私のお腹に手を伸ばした。

「変な意味じゃねーぞ?俺はてっきり別れ話だと思ったから。まあ、安心したんだ。」
少しだけ繋心の鼻が赤い。ちょっと、泣きたいのは私なんだけど。
「順番は違っちまったけど、俺と結婚してくれるよな?」
目を細めて歯を見せて二コーって笑う私の大好きな笑顔でそう言うからついに私の涙腺は決壊してポロポロと涙がこぼれ落ちた。
不安なんかどっかに飛んでいっちゃって、心に残ったのはポカポカと暖かい気持ちだけだった。



それから2人で妊すぐを読んで、繋心はすっかり張り切っちゃって、具合は悪くないかって5分おきに私に聞いてきたり、バレーやらせるぞって言ってみたり、女の子なら嫁にやりたくないだなんていってみたり。想像以上にこの子のことを受け入れてくれていた。
なあ、「あっちはないのか?」って聞かれて「なんのこと?」と返せば「結婚式の雑誌」と言うので「シングルマザーになるかもしれないって思ったら買えなかったよ」と答えた。すると繋心は私にデコピンをして「俺を信用しろよ」ってあからさまに肩をおとすからおかしくなって笑ってしまった。
こんな姿、高校生たちは知らないんだろうな。見せてあげたいよ。
本日何度目かの「具合悪くないか?」に「平気だよ」と返せば「じゃあちょっと外出るか。こういうのは急がねーとな。」と繋心は言う。
「どこに行くの?」って私が聞いたら「結婚式の雑誌買いに行く。お前ドレス着たいって言ってただろ?」って言うから私は大きく頷いた。
そして大きな手を握ってこの家を出た。

ゼクシィを買いに行った日


「お互いの両親に御挨拶ガイド付きだってよ!」
「うわ、俺…金髪やめて髪も切らなきゃいけねーのか…」
「いや、別にうちの親繋心のこと知ってるじゃん?気にしないと思うけど。」
「それでも挨拶は挨拶だろう」
「じゃあ坊主?」
「それも無えだろ。」
「んー、めんどくさいパパですねー。」
「パパ……お、おう」

共鳴様提出
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