私はほんとは真面目でもないし、人間を守るとかいう崇高な理念もなければ、1つでも小さい数の席官に昇進とかひとりで何匹討伐したとか、そういうのには全然興味が無いのだけれど、稽古に精を出してる間は一緒にいられるからこうして稽古に励んでいる。
真面目なふりをしてひどく不純で不真面目だ。
でもそれは鈍感な彼には気づかれていなくて、「女でこんなにやる気があるやつははじめてだ!」って気に入られた日、それから随分と経過して彼の隣にいる権利を得たあの日からももう随分時が経ってしまった。
家ではひどく自堕落で、甘えた人間だということももうすっかりばれ尽くしてしまった。

彼は11番隊の3席。私は10番隊の4席。これが今私たちに与えられている居場所だ。

彼は非番で、私は普通の勤務の日だった。
こういう日は決まって彼の家へいく。それから出かけることもあれば、何かを買ってきて家で食べることもあるし、彼が作っていてくれることもある。彼は意外にマメなのだ。
だんだんと短くなってきた陽は傾き、いつもより早足で彼の部屋の前に来ると仄かに味噌汁の匂いが香ってきてお腹がぐぅっとなった。


『一角さーーーーん!ただいまーーー!!』
「おう、名無子早かったな。」
『うん、朝からあっちこっち討伐司令が入っちゃってね。報告書明日でいいから定時で上がっていいよって言われたの。』
「そーかよ。お疲れさん。」
私が置いていった薄紫のエプロンをして台所にたつ一角さんは仕事中のそれとひどく似つかわしくなくていつみても吹き出しそうになるからぐっと笑いを飲み込んで『疲れた……』と呟いて、いい加減変えた方がいいくらいにやる気をなくした座布団めがけて飛び込んだ。
すかさず「死覇装皺になんぞ。風呂入るかせめて着替えろ。」という言葉が飛んできたけど無視して眠くはないけど目を閉じた。
もう一度「名無子」と呼ばれたけれど私は黙っていた。

もうすぐお味噌汁の匂いに混じってご飯の炊けそうな匂いと魚を焼ける香ばしい匂いもしてきた。包丁でなにか切ってる音もする。きっと私の姿を見て一段落したらほら、ため息をついて私専用にしているひざ掛けをそっと掛けてくれるのだ。

この幸せを当たり前に感じそうになる時もあるけれど、私たちはお互いいつ命を落とすかわからない立場で。しかも彼は11番隊。彼は特に戦闘を好む。
だからこの穏やかな日常がいかに幸せで尊いものかと噛み締めていたらいつの間にか本当に眠ってしまっていた。


「おい、飯。」
そんな声が頭から降ってきて、時計を見たらまだ15分しか立っていなかった。
いつもはご飯を用意してくれる彼の邪魔にならないよう机の上を片付けたり、出来た食事を運んだりするというのに目を覚ますと用意はすべて終わっていた。ご飯となめこのお味噌汁、焼き鮭とほうれん草のおひたし。簡単なものだけれど、そこには彼の愛情がいっぱい詰まっているとかんじていつも異常に胸が熱くなった。

『あ、ごめん!』
というと
「そんなに疲れたなら早く飯食って寝るぞ。」
と気遣ってくれるから尚更彼が愛しくなった。

口は悪くてもよく人のことを見ているところ。
甘い言葉はなくっても沢山愛情をくれるところ。
ゴツゴツした手も、彼の匂いも、真剣な眼差しも、彼を形作るすべてに私は恋をした。

「ほら、冷めるぞ。食えよ。」
『ねえ、一角さん?』
「ん?」
『好き。』
「なんだよ、飯作ったら好きとか言うのかよ、現金なヤツだな。」
『ほんとに好きなんだもん!!』
「あーもう、分かったから。世話が焼ける奴だな、ほら。」

こんなに手がかかるやつはいねーよ、って笑いながらほうれん草をつまんで私の口に放り込んだ。
あ、ちょっと茹ですぎだなって思ったけれど醤油じゃなくてポン酢をかけてくれていたことが嬉しくて『おいしい』って笑い返した。


「オレはお前のなんか食ってる顔が好きだわ。」
『えー!もっとほかにあるでしょ!かわいいとことか!おっぱい大きいとことか!!!』
おっぱいのくだりで一角さんは飲んでいたお味噌汁を吹き出して「それはねーよ」って笑うからちょっと拗ねてみたら
「お前の飯食ってる顔、毎日見てェな。」


「どうせなら一緒に住んじまうか?苗字もおなじくしてさ。」なんて彼が言うから一気に顔が赤くなって、今度は私がお味噌汁を吹き出した。



どうやら冗談ではなさそうだ。

そんな私たちの、1日。今日も日が暮れた。
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