肉まんと君の湯気

今夜は俺も明依も飲み会だ。
久々に黒尾達と飲むことになった。
みんな集まるとホント楽しくて時間を忘れてしまったけれど、日付の変わる頃明依は果たして帰宅しているのか、暗い部屋に帰るのは可哀相じゃないか、帰ってきてないとしたら遅くないか?いやこれくらい普通かという思考に陥ってしまいそろそろ離脱することを告げると自然とみんなが解散する運びとなった。

「夜久ー!泊めてー!」
「いや、無理」
「は?なんで?」
「なんでもだよ、帰れよお前。歩いて帰れる距離だろ。」
黒尾がいつものように押しかけようとしていた。押し問答をしているうちにとうとう家の前まできてしまい、明かりの漏れている俺の部屋を見ておどろいる。

「どういう事?」
「で、電気を付けっぱなしだったんじゃないかな…」
「俺ら昼間からバレーしてただろ。」
「まあな」
「とりあえず上がる。」

どうしても引かない黒尾を仕方なく家に上げると明依は帰宅したようでシャワーを浴びていた。
ニヤニヤしている黒尾に蹴りを1発いれ、明らかにピンク色の増した部屋に適当に座れと促す。
風呂上りは薄着でフラフラする明依に、彼女の部屋着が見つからないから仕方なく俺の部屋着にしているジャージをつかんで脱衣所に投げる。
「黒尾来たから、絶対ジャージ着て出てこいよ」と声をかければ間の抜けた「はーい、あ、おかえりー」とくぐもった声がきこえた。

「は?彼女俺の事知ってんの?」
「彼女じゃねーよ。」
テーブルの上にはコンビニの袋が1つ。中には多分肉まんが2つ。一緒に食べようと思って買ってきたのだろうか。
程なくすると風呂場から俺のジャージを着た明依が出てきた。
俺のジャージですら丈も裾も余っている。
髪の毛をタオルで拭きながら『あー!クロ久しぶりだねー!』と笑っている。

「は?お前らやっと付き合ったの?」
「だから付き合ってはないんだって。」
『うん、居候!』
「意味分かんねぇ、わけわかんねぇ。」
「俺だって最初わけわかんなかったよ。」
『衛輔、お母さんだから!!』
お酒も入って気分がいいのかニコニコしている明依を見てため息をつくとそのため息の意味がわかったのか黒尾は立ち上がった。

「俺やっぱ帰るわ。」
「俺は早く帰れって言っただろーが。」
『クロもうかえるの?』
「夜久に殺されたくないからな」
じゃあ、と足早に出ていく黒尾を見送りながら明依はもう一度俺に『おかえり』と言った。

『ねえ、肉まんたべる?』
「その前に髪の毛乾かせよ。眠くなって乾かさないで寝て風邪引くぞ?」
そう言ってコンセントにドライヤーの電源を入れて渡す。するとコイツは両手で肉まんを頬張っていてのんきに『おねがーい』と言ってきた。
人の気も知らないで。まったく。

『なんかね、今日女子会みたいな話だったのに合コンだったわけ。』
明依の長い髪の毛を乾かしながら話を聞く。合コンとかムカつく。でも、普通に家に帰ってきたことは何も無かったんだろうと判断できる。
「で?」
『うん。なんか全然楽しくないし、可愛いとか言われても嬉しくないし、ご飯もなんか衛輔が作るのより全然美味しくなくて帰ってきちゃった。』
だからお腹空いたの、と肉まんを頬張る明依の表情はみえない。

どんな顔で言ってるんだろうか、どんな事考えてるんだろうか。
なんにも考えてないんだろうな。そう思ったらすこしむしゃくしゃして後ろから明依のもつ肉まんに齧り付いた。

『わ!ひど!衛輔のもあるってば!!』
と騒ぐ彼女に、ホントの気持ちを言うのはもう少し先になりそうだ。
     
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