いちごパフェがしょっぱい

『来月ね、雪絵の結婚式があるんだよね!』
3月の一番最後の土曜日に梟谷でマネージャーをやっていた子の結婚式があるらしい。
1年の夏合宿で一緒になってから仲良くなりマネージャー達は宮城の烏野の人達も含め未だに仲がいい。
そんななかから一番先にウェディングドレスをきるやつが出たとあれば自然とこいつのテンションも上がる。

「で、なんで俺も…」
『わたしひとりじゃ買い物出来ないから!選んで!』
せっかく夕方まで何も予定のない日だったというのに朝から明依に起こされて10時を少し過ぎたときから街の中にいた。
結婚式にお呼ばれするのは初めてだからと、まだ購入していないパーティードレスを見るのに付き合わされている。

「で、その雪絵ちゃん?に聞いたのかよ。」
『なにを?』
「カラードレスの色。そういうのあんまかぶんない方がいいんだろ?」
『あー!うん、何か水色着るとは言ってた』
「じゃあ左手に持ってる水色はダメだろ。」

コイツはいつもそうなのだ。あれ可愛い!これ可愛い!となって迷って色んなところをぐるぐる回って結局何も買わずに帰ってきてしまう。
でも今日はだめだ。何としてでも選ばなくては。
結婚式まであと1ヵ月近く。その上2人でゆっくりと買い物できるような日は何日も残っていない。

「俺はそれがいいと思うぞ」
と右手に持っているピンクベージュのペプラムドレスを指さした。
ワッフル生地で出来ていて、スカート部分はオーガンジー素材を使ってウエストより少し上からキュッと締まったところからふんわりと広がっている落ち着いたなかにも可愛らしさがあるデザインだった。
着た時、一番にあっていた気がする。

『衛輔がいうならそうするー!お腹空いたー!』
やっと買い物から解放され、近くのカフェで腹ごなしをすることになった。

「私いちごのパフェね!」
『腹減ってるって騒いでんのにパフェ食うのかよ』
目当てのものを買えて、メニューの中でキラキラ輝くパフェたちに胸を踊らせてホクホクとした笑顔を俺に向けてきた。


「あー?明依じゃねーの?」

その時明依の肩が強ばって一瞬で顔が曇った。
俺が振り返るとそこには背が高くていけ好かない顔をした男が一人立っていた。もちろん僻み根性も混ざっている。

「お前、別れるって自分から騒いだから変だなと思ったけど浮気してたからなんだな」
『……ちがう。衛輔はそんなんじゃない。』
「新しい彼氏さんですかー?こいつマジでめんどくさいッスよー?なかなかヤラせねーし。
なにパフェとか食べんの?太るよ?また浮気されちゃうよ?」
『……っ』

いつもはギャーギャーうるさい明依が黙って肩を竦ませて下を向いている。
きっと今、明依は怒りと恥ずかしさに震えている。

「俺、彼氏じゃないけどこいつが美味しそうに飯食うの見るの好きだからイイっすよ。付き合ってたのにあんな可愛い顔知らないなんて可哀想ッスね。」

俺は笑顔でそう返すと男は苦虫をかみ潰したような顔をして去って行った。
明依は体をガタガタと震わせながら涙をポロポロとこぼし始めた。

『…私が太ったから浮気したって言われた。』
「はぁ?お前どこが太ってんだよ。」
あの日の明依を思い出すだけで心が痛くなる。それであんなふうになるまでダイエットをしていたのだろうか。
『最初は戻ろうと思ってた。でも、衛輔んちでココア飲んだらなんかあいつのことどうでも良くなって。…幼馴染みだからって甘えてばかりごめん。』

テーブルに、俺のオムライスと名のいちごパフェが運ばれてきた。

『ほんと…ごめん』
「溶けるぞ」
『え?』
「だから、パフェ。溶けるぞ。」
『…あ、うん。』
「いいんだよ、俺は別に。ほら食えよ。俺言ったろ、さっき。」

明依は笑顔に戻って涙を拭いていちごパフェを一口すくって口に入れた。
ほら、衛輔にもあげるよと何の気なしにアイスクリームと生クリームがのったスプーンを差し出してくるから心の中でため息をついて仕方なく口に入れる。


口に甘ったるさが広がる。俺が食べるのを見て満足そうにしている明依の顔を見てみればこれが間接キスだということに気づいているのは俺だけだということが痛いほどにわかった。
     
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