野菜炒めでおかえり

もうすぐ大学2年が終わる。
テストも終わり、レポートも提出した。
あとはしばらく長い春休みを満喫するだけだ。
明依との同居生活も10日が過ぎた。

バレー部の練習と週に3回、近くのバレー教室でコーチをするアルバイトをする俺。
週に4〜5日、大学近くのカフェでバイトする明依では明依の方が帰宅が遅い。
2人分の食事を用意するのが俺の仕事。
それを片付けるのが明依の仕事。
家賃と光熱費は折半でソファーに元俺の羽毛布団で眠る明依を起こす事にももう慣れた。


大学のバレー部は緩くて熱い高校時代を懐かしいなと思い出すけれど、今は意外と小中学生を指導するのが楽しくてそちらに熱が傾いている。
みんなリエーフより真面目で素直だ。
将来的にもそちらの道にすすもうかと思って教職も履修している。

明依は同じ大学の経済学部だ。
先に推薦でこの大学に決まっていた明依を「経済学部って顔じゃねぇ」と腹を抱えて笑った。
本人的にはとりあえず無難に大学を卒業して無難に就職するために潰しのききやすい学部を選んだのだという。
意外と成績は悪くは無いらしい。


高校までは家も隣で部活も明依はマネージャーをしていたからずっと一緒だったのだけれど
大学に入ってしまえばいくら同じとはいえ会おうとしなければ会えなかった。
それがなんだか寂しいような落ち着かないような気がしていたから、押しかけ同居生活とはいえ毎日明依の顔が見られるのはひどく心が落ち着く感じがした。


今日は初めて俺がバイトで明依が休みの日だ。
夕飯は帰って作るから待ってろと言ったが、空腹に耐えかねてお菓子をつまんでいる様子が目に浮かぶ。
待ってろって言ったろ?太るぞ、飯食えなくなるぞ、と声を掛けると自分の姿も。

太るぞ、なんて声をかけても本当にそうだとは微塵も思ったことは無い。
むしろ少し見ないうちに頬はこけ、全体的に小さな体な一まわりさらに小さくなった感じがした。
だから美味しそうにご飯を食べている姿を見ると安心する。だからついつい甘やかしてしまう。

部屋の前に来るとそこから漏れでる灯に頬が緩むのを感じる。
両手で頬を叩き緩んだ顔を元に戻して鍵をあければ台所から美味しそうな匂いがした。

『あー!衛輔おかえり!』
待ってましたとばかりに玄関に駆け寄る姿に驚いていると
『ごめん、衛輔作るって言ってたけどお腹空いちゃうから先作ったの。』
と黙っている俺が怒っているのかと勘違いしたのか急にしおらしくなる。

「あ、いや、悪い。ありがとう。」
そう言えばまたパァっと表情が明るくなった。

『野菜炒め作ったよ!衛輔好きだったよね!』
テーブルの上にはおよそ2人分には思えない量の野菜炒めがあって笑ったけれどそれでも他に並んだ焼き魚とワカメの味噌汁が食卓の体裁をなしていて、20年側にいてもまだまだ新しい発見があることを教えた。

味は普通に美味しくて、昔よく食べた味がした。
そうか、俺達はだいたい同じ味で育ったんだよな。俺の料理を食べる度に明依もこんな気持ちになっていたのかと思うと心がじんわり暖かくなった。
     
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