ケチャップで愛を書く

寒い。
2時半に無理やり寝たというのに7時にめがさめた。
習慣というのはひどく恐ろしい。
しかし今日の場合は寒さで目が覚めたと言っても過言ではない。
薄い毛布1枚じゃ暖は取れない。
普段俺の使っている超絶暖かな羽毛布団は今朝、明依の眠りを守っている。
黒い涙も乾いて線になり、口元には笑みが浮かんでいる。
安心しきった見慣れた寝顔に「襲っちまうぞー」と声をかけ、いや、それができたら苦労はしないのにと頭で思いながら台所へ向かう。

冷蔵庫を開けると牛乳は深夜のココアで切らしてしまったようだ。
卵とベーコン、玉ねぎがある。ろくなもんないな。買出し行かなきゃなとおもいながらとりあえず牛乳とパンを下のコンビニで買ってこようとおもい、寝巻きにしているジャージの上にダウンを羽織って寝ている明依を起こさないようにそっと家を出た。

ベーコンと玉ねぎでコンソメスープにしよう。
卵は甘いスクランブルエッグをケチャップかけて食べるのがあいつの好みだ。
トーストは色が付くかつかないかが好みで、ココアはぬるいのが好き。
アイツの好みなら何でも知ってんのにな。
アイツは俺が自分のこと好きなの知らないのな。

コンビニで牛乳と食パン、あと絶対に持ってきていないであろうクレンジングオイルを買い、小走りで自宅へ帰る。
部屋に帰ってもすやすやと寝息を立てている明依を横目に朝食を作りはじめた。
後はトースターの中の食パンが美味しい色に焼けた!と飛び出すのを待つばかり。
その匂いにつられたのかテーブルの脇の白い塊はもぞもぞと動き出す。
「おはよ」と声をかけると『……おはよう』と間抜けな声が聞こえる。まだ半分眠りを引きずっている。
それでも「飯出来てるぞ」と声を掛けると飛び起きて台所へ駆け寄るとキラキラした目でこちらを見てくる。目の周りは黒いけど。

『ねえ、卵甘い?』
「甘い」
『ケチャップある?』
「ある」
『やったー!』
「いいからとりあえず顔洗ってこい。ひどいぞそれ。」
『わ、化粧落とさないで寝たんだ…どうしよ』
「とりあえずほら、これ。あと洗顔は俺の使え。化粧水とかないからとりあえず我慢しろ。」
そういってコンビニ袋からクレンジングオイルを取り出して手渡す。

『え、衛輔すごいね。エスパー?』
「お前がズボラなだけ。」
パタパタとなれた様子で洗面所に向かう明依の背中にタオルは適当に取れよと声を掛け
できた朝食をテーブルに並べる。
よく知る顔になって戻ってきた明依は俺の対面に座りニコニコと機嫌が良さそうだ。

豪快にケチャップを掛けてスクランブルエッグを頬張るコイツ。
『うん、おいしい!安定の味!』と蕩けた顔を見せるからつられて俺も笑顔になる。

ああ、甘い本当に甘い。俺はお前にホント甘い。
今夜も眠れないと困るからお前の羽毛布団買ってやるから買出しに行こうと誘えば『え、私あの羽毛布団がいいよ。衛輔の匂いして安心する。』とふざけた事を抜かすので、どうやら新調するのは俺の羽毛布団になりそうだ。
     
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