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夏休みに入った。
ジリジリと照りつける太陽は嫌いではない。
だけどあんまり長く外にいると頭も痛くなってしまうし肌は赤くなって湿疹が出来てしまう。
めんどくさい体に生まれてしまったことを後悔するけれど、それでもやっぱり夏は好きだ。
学校のプールには一度も入ったことは無い。それでも水しぶきをあげてはしゃぐ同級生を眺めているのは好きだった。塩素の匂いも。
私ができる水遊びといえば花壇の水やりで、母が私の体のためにとはじめた家庭菜園に水を撒くのは私の仕事だった。
高校生にもなると、欠席が嵩むと単位の点で心配があるのだけれども、私のような人間のために非常に良い制度があって診断書を教育委員会に提出すると欠課してもよい時間数が増えるのだと先生は言った。もちろん一定の成績をおさめるひつようがあった。そして学校のためにできる範囲で奉仕作業をすること。
それを聞いてから私は真っ先に夏休みの学校の花壇の水やりの仕事を引き受けた。

課外授業が終わって、私は水やりに外へ出た。
グラウンドからは野球部とサッカー部、陸上部の声がする。体育館にはボールがはねる音がしている。
バスケ部だろうか、それともバレー部かな。
いつもの学校とは違う雰囲気が少し面白いと思えるのは、きっと西谷くんのおかげで学校にくるのが苦でなくなったからだとおもう!

「あれ?下條?」
「あ、西谷くん!部活?」
花壇に水を撒いていると、ちょうど額から流れる汗をタオルで拭きながら歩く西谷くんと会った。
「おう、でも今日は終わったとこ!下條はなにしてんだ?」
「水撒きだよ。奉仕作業してるんだ。」
授業の欠課が多いからさ、と恥ずかしさから声が小さくなった。
「そんなことしなきゃなんねーのか、大変だな。」
「そんなことないよ、楽しい。」
「水撒き楽しいやつ、はじめて見た!」
ニィっと歯を見せて笑った西谷くんは見た目よりさらに幼く見える。並んで立っていても目線はほとんど同じだ。
笑うと目がなくなるんだって初めて気がついた。

「あ!そうだ、課題!教えてもらおうと思って連絡しようとしたんだけど俺、下條の連絡先しらなくてさ。今日時間ある?」
「うん、少し残ろうと思ってお昼持ってきたよ。」
「じゃあ今からいいか?あと連絡先おしえて!着替えてくる!!」

そう言って西谷くんは来た道を戻ると大きな声で「旭さーん!今日やっぱサーブ練出来ないっす!!俺課題やるんで!!」とさけんでいた。

どこで待ってればいいのだろう。
とりあえずあと2箇所、水撒きを終わらせなくては。
頬が熱いのは、夏の太陽のせいにしておこう。

でも、胸がドキドキするのは?
これも夏のせいってことにしていいのかな。