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最後のテストの答案を返された時に、人目をはばからず西谷くんは「うおおおおお!!!!よっしゃあああああ!!!!」と雄叫びをあげた。
英語の先生は「40点で調子に乗るんじゃない!」と軽くチョップを落とした。
隣の席に戻ってくると西谷くんは私に向かってピースサインをしてニカッと笑った。

「これで東京遠征いけるね」
私はそう彼に向かって笑いかけると「ありがとな!これ、下條のおかげだわ!本当ありがとう!!!」
と私の手を取りブンブンと握手をした。
男の子の手を握るなんて小学校の低学年以来だ。恥ずかしくなって顔を真っ赤にすると西谷くんもそれに気付いて顔を赤くして「わ、悪かった」といった。

それがちょっとだけ名残惜しくて、少しだけ後悔をした。

「下條は?何点だったんだ?」
そういって私の答案を覗き込んだ西谷くんは目を丸くして私を見た。そしてぼそりと
「超頭良かったんだな…」っといって私の答案を見ながら自分の答案に正答を書き写していった。


思えばこの短い期間、とっても楽しかったな。
初めてこんなに男の子と話したんだ。
いつだって私のことをバカにしたり、からかったりする男の子たちは私の中では苦手意識をそのまま形にしたようなものだった。
だから西谷くんは私に初めてできた男の子の友達、と呼んでもいいのかな。そんな存在だった。
だけど明日から、あの楽しかった勉強会は無くなるんだなって思ったら少し寂しくて。


「なあ、下條さ、夏休み学校きたりする?」
「課外とかあるからくるよ?」
「じゃあさ、夏休みの宿題も教えてくれ!俺、だいたい部活で毎日来てっから!な?ダメか?」
下條マジでわかりやすいんだもんな、俺頭良くなった気分なんだもんな。なんていっている西谷くんの大きな私語に呆れた先生が「おい、西谷あんまり下條に迷惑かけんなよ」って教卓から声をかける。
教室がどっと笑いに包まれて、注意されたのは西谷くんなのに私の方が恥ずかしくなってしまった。

「悪い!」
と今度は小さな声で謝った西谷くんにわたしは
「宿題、一緒にやる?」
と小さな小さな声で返した。
「よっしゃあああああ!!!!」 とガッツポーズをした西谷くんにとうとうしびれを切らした先生がこちらに歩み寄ってきて「いい加減にしろ!」と今度はコツンと軽いゲンコツをおとした。

今日2度目の爆笑の中でさらにさらに私は小さくなった。


すると後ろの席から話したことのなかった女の子がわたしの背中をシャーペンの上でツンツンとつついた。

「さっきの騒ぎで問4の回答聞こえなかったんだよね。西谷、下條さんのうつしてたでしょ?私にも教えて貰っていい?」
と笑って言った。
私は嬉しくて、言葉も出ないまま何度も縦にうなづいた。

西谷くんと話すようになってから、わたしは嬉しいことばかりだ。
はじめてまだ夏休みが来なければいいのにって思ったのだ。