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残り物には福がある。

くじ引きのはこの中で最後まで引かれずに残った席は窓際の後ろから2番目だった。

「宮本、いい席で良かったな!」
「う、うん。」
「しばらくよろしくな!」
「うん、よろしく。」


西谷くんはいつもクラスの話の中心にいる。
どこにいても分かるよく通る声で、その声はいつも端っこで息を潜めている私にまでよく届いた。
良くいる、スクールカースト上位の人と違って誰かをネタにして笑ったり、平気でけなすような人たちとは違ったから怖いという印象はなかったけれど、それでも自分とはどこか違う人だという意識はあった。

だから私の顔と名前が一致していたことも、わざわざ私に席を教えてくれたとこも、私に話しかけてくれたとこも私にとっては日時のなかの非日時であった。

でもそれもその日だけのほんの気まぐれで、きっとこれっきりだと思っていた。



だけど彼は休み時間の度に私に話しかけてきた。
「なあ、宮本ってさ」
『は、はい』
「なんで敬語なんだよ」
『あ、いや、うん』
「4月も長く休んでたべ?たまに休むけどどっか具合悪いの?」
『あ、うん。あ、いや』
「どっちなんだよ!」

今日初めてしゃべった人に聞く内容じゃないよな。
なんて答えればいいんだろう。別に直接命に関わるわけじゃないけど、って最初から話せばいい?それとも適当に流すの?どうすればいいんだろう。
そう頭の中で答えがぐるぐる巡っていたら、既に西谷くんは私への質問に興味が無くなっていたようで

「いきなりごめんなー、宮本とは喋ったこと無かったからさ。でも話題がなくて。」
と笑った。


あまり人には話したくない話題だけど不思議と嫌な気持ちはしなくて、なんて返せばいいかわからなかったから私はただ笑った。

「ノヤっさーん」
そう廊下から声をかけられて西谷くんは行ってしまった。


「明依、最近西谷と仲良いね。」
そう廊下に向かっていった背中を見つめていたら頭の後からユキちゃんの声がした。
『そんなことないよ』
「遠慮しなくていいんだよ、もっとみんなと喋ればいいのに。」
『…うん』


そういえば最近教室に入るのが怖くない。
深呼吸しなくても、大丈夫。
それはきっと、私が席に座れば横から「おはよう」って言ってくれる西谷くんがいるからなのかもしれない。