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先週末、体調を崩して休んでしまった。

3日ぶりの教室は少し緊張する。
スゥーっと深呼吸して教室の扉を開けた。
扉を開けるとそこは、私の見慣れた風景ではなくて、私の席があった場所には違う男の子が座っていた。
よく見ると、それは私の席だけに限ったことではなく席替えがあったのだろうということが分かる。

私の席はどこなのだろうか。
あたりを見回すと


「おー!下條!」
大きな声が教室に響いて一斉に視線が私に集まった。
ビックリして立ち竦んでいると
「下條、俺の隣だぞ!こっち!」
とその声の主が呼んだ。
私は縦にひとつ頷いて、声のする方向へ向かった。

私が席に着く頃にはクラスメイトたちはそれぞれのおしゃべりに夢中で誰も私のことなんか見ていなかった。

「おはよう」
その声の主はそう私に言った。

『おっ、……おはよう』

これが私と彼の初めての会話だ。


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四角く区切られた、教室という小さな社会の中で私のカーストは決して高くはない。
挨拶をすれば返ってくるけれど、私が学校を休んだとしてもそれに気がつく人は果たして一体この中のどのくらいの割合なのだろう。
私はもともと丈夫でない体の具合を崩して春休みの終わりから入院をしていた。
進級し、新しいクラスになって2週間。
私が初めて2年3組の教室に足を踏み入れた時、私はいなくて"当たり前"の空気が出来上がっていた。

みんな必死なのだ。この狭い社会の中で、少しでも自分がうまく立ち回れるように。呼吸しやすいように。他人の瞳に怯えなくて済むように。
そんな大事な期間にいなかったのは私だから、別に気にしてはいない。別に意地悪されているわけでも意図的に避けられているわけでもない。それで充分だった。
幸い、幼なじみのユキちゃんがいる。
ユキちゃんももうこのクラスで共に行動する女の子が隣にいたけれど2人はなにかと私を気遣ってくれていた。

私はこの2人に迷惑をかけないように、そっと息をひそめて卒業までの2年間過ごせばいい。そう思っていた。


きっと私は、将来懐かしい思い出に浸りたくて開いた卒業アルバムのなかで"こんな人いたっけ?"と言われるような存在になるんだろうって思っていた。


衣替えをしたばかりの、真っ白なシャツが眩しいあの6月までは。