好き。
大好き。
どうしようもないくらい、愛してる。



ただ声を聞くだけで、
嬉しくなるから、

テレビで姿を見るだけで、
嬉しくなるから、

だから、
会えなくても…へいき。

















「翔ちゃん、…別れよう」


「え…?」


「…別れてください」



翔ちゃんと目を合わせずに、言った。



「…っ、どういうことだよ」



強い力で肩を掴まれて骨が軋む音が聞こえる。



「そのままの意味、だよ…」


「……」



口を噤んでしまった翔ちゃんの、肩を掴んでいる手に自分の手を添えて下ろした。

温もりが感じられないのは、あたしの手が冷たいからなのか、翔ちゃんの手が冷たいからなのか。

離そうとすると、それまでされるがままだった翔ちゃんの手があたしの手をきゅっと掴んだ。



「お前は!…俺がいなくても生きていけるってことかよ…」


「…っ、」



ちがう!
つい言いそうになる言葉を無理やり飲み込んだ。

だってあたしは…。



昨日の昼の、無機質な電話の声を思い出す。


゛翔はこれからどんどん売れていきます
でも、それにはあなたが邪魔なんです"


一切感情が読み取れない、抑揚のない声で言われて、どんなにあたしの心に刺さったか。

そんなの他人のあなたに言われたくない、なんて強がってみたけど、あたしだってそんなの分かってた。
だから余計に心に刺さった。



「へいき、だよ…
だって翔ちゃんめったに会えないんだから、別れてもあたしの生活は変わらないし」



だめ、声が震える。



「もう、疲れちゃった」


「だったら、
俺の目見て言えよ!」



泣いてるような翔ちゃんの声が頭に響く。

ずっと俯いてたのを翔ちゃんによって上げられて、あたしが愛したまっすぐな瞳と目が合わさった。


あたしの顔を包む手だって、
数え切れないくらい重ねてきた唇だって、
もう、翔ちゃんの全部が

いとしくて、いとしくて。


翔ちゃんと過ごしてきた日々が思い出される。



このまま目を合わせてたら、泣き出してしまいそうだった。



「俺の目を見て、言えよ」


「…っ、も、疲れ…」



じわりじわりと膜を張っていった雫はついにほろりと零れて。

見られないように俯きたくても、手で固定されてできない。



いやだよ別れるなんてあたしが、翔ちゃんの夢の邪魔になるくらいなら別れるって思ったけど、でもやっぱり、やだ


ぎゅうぎゅうに押し込めてた気持ちが涙になって零れ落ちる。

でも、



「…っ、と、にかく、っ…別れ、た…っ」



急に強い力で引き寄せられて、ろくに抵抗できないまま翔ちゃんの胸に倒れ込む。

そのまま、隙間がないくらいにぎゅう、と抱きしめられた。



「俺は、美優がいないと生きていけない」



喜んじゃダメなのに、きゅう、と素直に喜ぶ心が苦しい。



「絶対、別れないからな」


「翔ちゃ…、」


「美優が誰に何と言われようと、俺が別れてなんかやらない
夢も美優も、同じくらい大事だ
片方でも欠けたら俺は俺じゃなくなる」


「…っ」



ぶわっと涙が溢れる。

どうしよ、嬉しい。
嬉しすぎて言葉が出ない。



「どうせマネジャーとかに言われたんだろ
そんなの真に受けなくていい
俺が、美優がいいんだ」



翔ちゃん気づいてた…。



「だから、美優はもう一生俺の女だ!」


「…っ、うん!」


「よしっ!」



ずっと密着してた体が離れて涙を手で拭われた。

そのまま手が頬に添えられて上を向く。


目があって互いに微笑むと、目を閉じて、甘い甘い、キスをした。



あたしは、ずっと、翔ちゃんの女。







ただそれだけ


愛してる

それだけじゃダメですか?







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