真っ暗な部屋の中、一筋の月のほのかな光がベットを照らし出している。


その中で、規則正しく寝息をたてている青年は穏やかな顔で、起きる様子は全くない。

──女が近づいているのにも関わらず。



女はニヤリと妖しげに口を歪めて、男の顔の横に手をつき、覆い被さった。



「…起きてるんでしょう?」



絡みつくような、甘ったるい声で言われた言葉に、ゆっくりと男がまぶたを上げ、まっすぐ女を見やる。



「…ばれた」


「もう8度目だからね」


「よく飽きずに8回も来たよね
しかも毎回夜に」


「だってボスからあなたを殺してこいって言われてるもの」


「で、もう7回も失敗
俺は君を殺そうと思えば出来るんだよ?
今はただ、気まぐれで生かしてるだけ」



美形どうしの、絵になる光景なのに、交わされるのは物騒な言葉ばかり。



「じゃあ今殺せばいいじゃない」


「いちお、ここ、俺の寝室だし
俺、血生臭いの嫌いなんだよね」


「…うそつきね」



自信ありげに、意味深な言葉を吐いた女は綺麗に、妖艶に、笑っていた。



「冷酷非情、血も涙もないと有名な、あのボンゴレ10代目が血の匂いを嫌いなわけないわ」


「それを言うなら君もうそつきだろ
殺されたいなら、夜じゃなくて、みんながいるところで俺を殺しにくればいいんだから」



女の誘うような笑みに対して、男は妙に色気のある笑みを浮かべてみせた。

肉食的なそれらは次第に距離がなくなっていって。



そのまま、引き寄せられりようにぴたりと唇がくっついた。



何度も何度も、離れてはくっついて、いつのまにか男が女を押し倒している様になっている。

互いの首に吸い付き、痕を残し、その後一瞬だけ辛そうに顔を歪めて。







しばらく続いていたその行為は、3時の鐘によって終わりを告げられた。



「…今日も、失敗だね」


「…またボスに叱られるわ」



乱れた衣服を整え、何もなかったかのように、女は帰っていった。










二人が、何の変化もない行動を繰り返すのは、二人ともこの関係を崩したくないからで。



次会うまで二人は、キツくネクタイを締めて、過ごすのだろう。


お互い、相手の気持ちを知りながら。

自分の気持ちを自覚しながら。


それでも、二人の思いが交わることはない。



自分のファミリーのため。
相手の立場のため。


秘密の恋として隠し通すのだ。






言いたい2文字、
伝えたい5文字


(好き)
(愛してる)



- ナノ -