煌びやかなドレスに身を包み、笑顔を顔に張り付けて思ってもない賛辞を交わしあう女たち。

つけすぎた香水をプンプン匂わせて、会場が甘ったるい。

そして色目を使って近付いて来ては体をぎゅうぎゅうと押し付けてくるし。



「…だからパーティーっていやなんだよね」


バルコニーの手すりに寄りかかりながらボソリと呟いた言葉を聞いているのは、空にある星屑たちだけだった。







今日は俺、ボンゴレ10代目の誕生日パーティー。

パーティーが始まってからずっと俺の周りを女性が囲んでいて身動きが取れなかった俺は、女性たちを隼人と武に任せて抜け出してきた。



「はぁーあー…」



パーティーにいる女性は、なんか苦手だ。

超直感も、ここでは女性たちのドロドロした心の声がわかるだけだから、逆にいらなかったりする。



「疲れたー」



…と。

誰かが後ろから来てる気配に気づいて、とっさに作り笑顔をして振り返ると、バルコニーの入り口にひとりの女性が。


頼りだった月明かりは月が隠れてなくなり、さらにパーティー会場からの光との明暗の差で、顔がよく見えない。


せっかく逃げてきたのに、と思ったけど笑顔は崩さずに顔の見えない彼女を見やる。



「あ、…すみません
先に人がいらっしゃってたんですね」



すると、聞こえた言葉はそんなもので、なんか拍子抜けしてしまった。



「いえ、…どうぞ?」



他の女性たちとは違う感じがして、なんとなく近くにあった椅子に座るよう勧める。



「あ、ありがとうございます」


少し気まずい空気の中、彼女も同じようなため息をついたのが聞こえて、思わず声をかけた。


「…どうかされましたか?」


「えっ!?」



思ったよりも驚かれて慌てて言い訳のように付け加える。



「や、なんか疲れてるみたいなので」


「あ…、すみません
人様のパーティーにため息なんて失礼ですよね」



照れるように小さく笑って俺を見上げた。

ずっと隠れていた月が雲から顔を出して再び、照らし始める。


照らされた彼女は他の女性たちと違い、化粧も、ドレスも、控えめで、それでも彼女を引き立てていた。



「…私、パーティー苦手なんです
今日はお父様からいきなり言われて連れてこられて…
ドンボンゴレに挨拶しなきゃとは思うんですけど、失礼なことに私、顔が分からなくて」


困ったように俯いて、何か思い出したように顔を上げた。



「あ、すみません…
知らない方にこんなこと言って」


「いや、俺も同じです」


「…?」


「俺もパーティー苦手なんですよ」


「そうなんですか?
…そんなかっこいいのに」


「そんなことないです
それに、かりに顔がいいとしても、パーティーが苦手な俺にはそれはマイナスにしかなりません」


「それもそうですね
あなた…えっと、」



まだ名前を知らないことに気づいた彼女は一旦言葉を濁す。


俺がボンゴレ10代目だと名乗ったら、彼女の態度は変わってしまうのではないか。

それは嫌だなぁと思ったが、彼女はそんな人じゃなさそうだ、と少し話しただけでもわかるほど彼女はいい人だった。

そう行き着いてから、でもなぜかモヤモヤしながら口を開いた。



「俺の名前は…」


「あっ、いえ、いいです」



だが、彼女が焦ったように遮って。



「…?」


「なんか、私、男の人と本心でこんなに話せるの、初めてなんです
だから、せっかく、こうして知り合ったんですから、なんか名前を知ってしまうのがもったいなくて…」



そこで言葉を切った彼女は、言いたいことを言い表す言葉が見つからないのか、一旦考えこんでからまた話し始めた。



「名前を知ったら、あぁあのファミリーか、とか、詮索しちゃうじゃないですか
だから、なんというか、その…、この関係を壊したくないんです」



あぁ、そうか、と思った。

モヤモヤが晴れていく。


このモヤモヤは、彼女と同じ気持ちだからだったんだ。



「…じゃあ、あだ名を教えてくれませんか?」


「あだ名、ですか?」


「ほんとの名前は教えず、あだ名で呼び合いましょう」



提案すれば、パァっと笑顔が輝いて。



「はいっ!
じゃあ私のことは、はると呼んでください!」


「俺はツナでお願いします」





輝かしいパーティー会場の端っこ、満点の星空の下で交わされた、小さな恋の始まりを見ていたのは、空に浮かぶ星屑たちだけだった。






星屑dilemma

近づきたい 近づきたくない






- ナノ -