ひとまず最悪な夜


「ほんっと、最悪ね」


 無意味に通りの良い声に顔を――本当は上げたく無かったが、しぶしぶと――上げれば、其処にはいい加減に見飽きた彼女の険しい横顔と、俺を睨み付けるベルフラワーの瞳。考えるまでも、悟る必要すら無く超不機嫌な彼女の様子から俺はそっと目を逸らし、取り合えず深く息を吐いた。



 ひとまず最悪な夜



 日はとっくに暮れてしまっている様で、空は穏やかな虫食いの黒に覆われている。地上にも同じく黒が降り、所々に設置されている街灯が弱弱しく闇を遠ざけていた。それらをアスファルトごと蹴り飛ばす勢いで力強く歩きながら、カザハは唇を尖らせる。


「ったくもう。何よ、迷子って」
「目的地に辿り着けなくなった状態の事」
「誰が意味を答えろって言ったのよ」
「『何』って言ったのはカザハだr」
「だからってそんなに気が利かない上に空気の読めない台詞しか言えないんなら、せめて黙ってなさい愚か者」
「……そうします」



 俺達がフィールドワークへ出る為、何時も通りに学校の門をくぐったのはもう数時間も前の事だ。目的の場所で資料を漁り、あまり芳しいとは言えない結果を得て指定された帰還地点へと足を踏み入れると、"ジリジリ"という聞き覚えの無い音。これまで感じた事の無いような違和感と共に開けた視界には、見覚えの無い風景が有った。事態を飲み込むのに余り時間は必要無かったが、だからと言って好転するかと言えばそうではない。



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