Dear dreamer



 遥か遠くから響いてくるぼやけた鐘の音に、意識の奥底に沈んでいた星澤アサヒの意識は浮上を開始する。何層にも重なる柔らかい膜を、微かな抵抗を受けながらも突き破っていくイメージ。上に行くにつれ身体中に染み渡る様に戻ってくる感覚は、頬にかかる暖かさと引きつる様な首の痛みを伴っていて。"向こう側"に感じる光に目蓋を押し開ければ、其処にあったのは彼が何よりも愛しいと感じる彼女の寝顔だった。



 Dear dreamer



「……っ!?」


 すぅすぅと寝息を立てる彼女――かれんのあどけない寝顔に魅入ってしまったのも一瞬の事。思わず声が漏れそうになった口を左手で塞ぎ――机や椅子が音を立てなかったのは奇跡だと思いつつ――慌てて辺りを見渡す。
 真昼の柔らかな陽光に包まれた学生会室は酷く静かで、跳ねる心臓の音を必要以上に良く聞く事が出来る。机上に少々乱雑に広げられている書類の上には、筆記用具と眠たげな自分の字が踊る。少し彼女の方へと視線をずらせば、甘い香りと微かな刺激臭を漂わせるピンク色の可愛らしい包みが所在無さ気に佇んでいた。
 何となく把握出来た現状と、落ち着いてきた鼓動に軽く息を吐く。ちくりと刺さる罪悪感は『自分が何時から眠っていたのか』に由来するものではなく、『彼女を眠る程に待たせてしまった事』から来ているものだろう。かれんの優しさと自分への情けなさで胸が締め付けられ、息苦しさに目を細めた。

――『守らなくてはならない』のに、
――いつの間にか『守られている』。




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