雪乃様 龍也夢
シャイニング事務所専属のマンションに住む私の部屋のインターフォンが何度か鳴り、モニターを確認すると、同期の神宮寺レンがそこに映し出された。ドアを開けるとすぐに「大変なことになったよ」なんて入って私に一枚の紙を手渡した。


「なんじゃこりゃあああああああああああああああ!!!」


そこには私とレンが仲良さ気に…いや、実際同期で学生時代からの付き合いだから仲は良いのだが、別に恋仲であるとかそういう事は一切ないのだけれど、記事にはあたかも二人が密会デートしているかのように書かれていた。人気アイドル同士の禁断の熱愛発覚というタイトルに動揺が隠せずにいると、レンは「俺も本気恋愛か!?とか書かれてビックリしたよ」なんて苦笑していた。


「レディ?ごめん、俺としたことがまさかこんな記事にされるとは思ってなかったよ。」

「…」


人生初のスキャンダルであって、週刊誌に載るなんて思ってもいなかったが、事実無根なのでよしとしよう。でも、それが問題ではない。


「レディ?」

「ねぇレン。龍也はこの記事いち早く見てたはずだよね…」

「あー…そうだね。とりあえず、事務所に呼ばれてるから、リューヤさんの所へ一緒に行こうか。」

「うん。」


龍也先生は学生時代からお世話になっている恩師だ。でも、今は私の彼氏。こんな記事を見てもし逆の立場だったら嘘だとわかっていても気分の良い物ではない。

________________


事務所に到着すると受付で社長室へ行くように促された。
部屋には社長しかおらず、事情を一通り説明すると社長は納得し、この件はどうにかするから今まで通り仕事をするようにとお達しが出た。龍也を探すと事務所の一室から出てくる龍也を見つけ、駆け寄った。


「龍也っ」

「悪いが今俺は忙しい。後にしてくれ。」

「…ごめん。でもね、」


林檎ちゃんと龍也が作詞して、春ちゃんが作曲した曲を先輩達が歌うというビッグ企画と、普段の経理の仕事、舞台の仕事、色々重なって忙しいことはわかっている。でも、どうしてもあの記事のことを弁解したかった。


「…すまん。別にお前と神宮寺がどうとかってのは気にしてねぇ。だが、お前もアイドルなんだ。ちゃんとしろ。」

「…ごめんなさい。」


龍也はちゃんと理解してくれていた。アイドルの先輩として、元担任としてお叱りを受け、嘘だとしてもこうやって記事になってしまうということがファンや事務所にどれだけ影響が出てしまうことなのかを改めて感じさせた。

__________________



記事が出てからは怒涛のように記者が押し寄せ、仕事以外は一歩も外へ出ることができない日々が続いた。龍也に連絡を取っても中々つながらず、ちゃんと話もできないままだ。事務所からは記事に関しては事実無根であることを発表済みだが、こういったスキャンダルを世間は放っておかず、ついにST☆RISHの新曲発表、林檎ちゃんと龍也の企画番宣、私の新曲発表というスキャンダル後の共演生放送番組がスタートした。


「いやらしい話しちゃうけど、今日の視聴率、すごいんじゃないの?噂のビックカップルが揃っちゃったんだからさ〜!ST☆RISHの神宮寺君、その辺詳しく教えてよ!」


まったく空気の読めない司会者だ。
前列にいたST☆RISHのメンバーは後列にいる龍也と私のどんよりとしたオーラを感じ取ったのか苦笑だ。


「そういうのは報道の仕事だろ?ここは、皆が俺たちの音楽を楽しんでもらう場だから、その質問には答えられないよ。ごめんね。」

「でも、実は事務所公認とか、ゴールイン間近だとか噂が飛び交っているし、今回の名前ちゃんの曲も恋愛ソングになってるし、皆とっても気になるんじゃないかなぁ?」


レンがサラリと交わすが司会の猛攻は続く。すると、後列にいた林檎ちゃんが龍也の腕を掴んでいた。龍也は何とかその場に留まってはいたが、林檎ちゃんがいなければどうなっていたかわからない。


「龍也っ落ち着いて。」

「わかってる。」

「全っ然わかってなさそうなんだけどー!」

「名前…悪い。」


急に龍也が私に向かって謝った。


「2人は学生時代からの付き合いなの?」

「おい司会っ!」


レンと私に対して向けられたカメラと司会の質問を遮る様に龍也が立ち上がって声を張り上げた。


「さっきからいい加減なこといってんじゃねぇぞ!名前は俺の女だっ!!!」


会場が静まりかえり、モニターには龍也の姿が映し出されていた。
何が起きたのか状況が掴みきれない私と、司会者。カメラマンの後ろでスタッフが慌てふためいている。


「ぷっ…」


シンとした空気を崩す噴出した笑いをしたのはレンだった。


「笑うな神宮寺っ」

「いや、良かった良かった。リューヤさんとレディが俺の所為で破局しちゃったらどう責任とろうかと思ってたんだよ。」

「別れねーよ!つか、お前に心配されるような脆い関係じゃねぇんだよ。将来だって真剣に考えてんのに、神宮寺と名前のお友達コンビで写真撮られてんじゃねぇよ!」


レンも龍也も生放送で何言ってるんだ。これ、噂に聞く放送事故って奴なんじゃないのか?コイのように口をパクパクさせていると林檎ちゃんが背中をさすって私を慰めてくれた。


「日向先生、カッコイイぜ!!!」

「翔ちゃん!何持ち上げてるの!!!」

「いーじゃん、時間の問題だったんでしょ?」

「ダラダラ付き合っていて何の進展もなさそうでしたが、今回のこれがいいキッカケになりましたね。」

「音也も…トキヤまでそんな非常識なっ!!!」


次々と、良かった良かったと賛同の意見が出てきて、仲間がこんなに心配してくれていたことは本当に嬉しく思う。でも、突如生放送で交際宣言をされて動揺しないわけがない。龍也は吹っ切れたように二カッとこちらに笑顔を向けた。


「ありがとな、お前等!っつぅ訳だから、司会、続けろ。」

「で、では、CMの後は名前ちゃん、新曲よろしく!!!」


司会者がスタッフの出したカンペ通り、番組を進める様に私を指して、全てを私に投げてきた。


「この状況で歌えませんってーーーーー!!!」


そのままCMに入ったが、CMが開けてもきちんと練習通りに歌えるか否かは何となく想像ができるであろう。

fin
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -