京都の実家から時折送られてくる荷物の中にたまに菓子が送られてくることがある。しかし、連続ドラマの出演が決定したから挨拶にと山ほど送られてきたそれ。共演者以外にも近しい友人やお世話になっているスタッフにも渡しとても喜ばれた。菓子はどれも京都の老舗和菓子店のものであったが、特に出町柳の金平糖はガラス器に入っていて宝石のようだ。きっと名前は喜ぶだろうと早々とっておいて今度会った時に渡そうと決めていた。
渡した包装を解いた後「わぁ綺麗」と目を輝かせている名前を見て愛らしいと感じる自分の表情は変じゃないかと窓ガラスに自分の顔を覗いてみると、ガラス越しに名前と視線が合って咄嗟に自分の顔が赤くなるのを感じた。手で覆い隠した瞳を指を割ってチラリと名前を見ると、彼女も顔を赤くして「ごめん。」と照れ笑いした。
しばらく部屋でくつろいでテレビを見ていたらいつの間にか隣に座っていたはずの名前の頭が肩に寄りかかった。上から見ると長い睫毛、スッと通った鼻筋が綺麗だ。スヤスヤと整った寝息が安堵を与える。
「名前…寝てしまったのか。」
「んん…真斗」
「っっっ!!!…寝言か。」
急に自分の名前を呼ばれてドキリとしたがどうやら寝言だったようで、また整った寝息が聞こえてきた。ふと、サラリと流れた髪を梳かす様に頭を撫でた。
「…ん…あれ?寝ちゃってた…ごめん。」
「いや、大丈夫だ。お前の寝顔が見れたしな。」
我ながら大胆な事を言ってしまったと思ったが、すでに名前はまた顔を赤く染め、可愛らしく恥じらっていた。
「っ!やだ、恥ずかしいから見てないで起こしてくれればよかったのに。」
「すまない。でも、名前もここ最近仕事漬けで疲れていたんだな。もう今日はお暇しするとしよう。」
愛おしい恋人がすぐそばにいて、こんなにも近い距離で居られるという安堵感と同時に訪れる本能。仕事で疲れている名前に無理をさせては恋人として有るまじきことだと言い聞かせ、抱きしめたい衝動を抑えて立ち上がった。
「え…行っちゃうの?」
「今日はもう休め。また今度ゆっくり話そう。またスタジオでも会えるだろうし、楽しみにしているからな。」
物悲しそうな表情の名前が自分の小指を掴んで「待って。」と引き止めた。
突然の事に驚くと、俺を見上げる名前は恥ずかしそうにおずおずと言葉を連ね始めた。
「大丈夫だから…その、もっと一緒に居たい…です。もっと、真斗に触られたい…。」
「こ、婚前の婦女子がそんな…大胆な事を言うな!」
「真斗…?」
先程の自分よりも大胆な発言をした名前に心拍数があがっているのがわかる。思わず大きな声で返してしまったためか、名前が機嫌をうかがうように声を掛けた。覗き込んだ表情が不安そうで、名前を咄嗟に抱きしめていた。
「名前…すまない。俺だってお前と離れたかった訳じゃない。」
「うん、知ってる。でも、我儘言ってごめんね。」
触れたくて仕方がないけれど、大切な名前を怖がらせたくなくて、自分にも勇気が足りなかった。互いに触れたいという気持ちがあって、それで満たされる心だってあるはずだ。安心したのか、腕の中で「えへへ」と笑う名前がまた愛おしくて堪らなかった。
名前の顎を掴むと上に持ち上げて視線を合わせる。名前の睫毛が緊張からか少し揺れて、期待と不安が混ざり合った表情が自分の理性を壊していくようだった。プクリと柔らかな唇に自分の唇を重ねると、何度も何度も啄むようにキスをした。
「名前…」
「んん…ま、さと…」
息が上がってきた名前の赤く可愛い舌に自分の舌を絡ませると、互いの熱が伝わる様だ。名前の遠慮がちに動く舌を深く絡めとったり歯列をなぞると色気を帯びた吐息が耳を犯していくようだった。「…大丈夫か?」と問うと、上気した頬で優しく笑う名前。
「ん…真斗、もっと…」
「っっっ!どうなっても知らないぞ!」
愛おしくてまた抱きしめる。
甘い夜はこれから始まるのだろう。
fin