05
コンコン


「入ってまーす」


「…?し、失礼します。」



よくわからないけれど、ド派手なショーのような入学式を終えたところで、私は何故か校長室に呼ばれた。
細かな装飾が施された校長室のドアをノックするとどうやら早乙女校長が返事をしたようだった。





「よく来ましたねっ!Miss一ノ瀬。」


「あの…私、どうして呼ばれたんでしょうか」


「Mr一ノ瀬の事は知っていますねー?」


「HAYATOの件ですか?大丈夫です、誰にも言うつもりはありません。」


トキヤの名前が出てなんとなく呼ばれた理由がわかってきた。
HAYATOとは双子の兄弟として学園生活を送るトキヤはきっと完璧にそれを押し通せるだろうけど、素人で急に姉弟になった私のことを気にしているのかもしれない。



「それもそうデスがー!BAT―!それではありまっしぇん。」


「???」


「Mr一ノ瀬のこと、シスターとしてしっかり面倒みてちょーだい!」


「???いや、むしろトキヤは私の助けなんていらないくらいしっかり者ですよ。」


「それが危険なのですー!…HAYATOを隠して学園生活、今までにないライバルがいい刺激になればいいが…奴は昔から繊細すぎるところがあるからな。」


「そうなんですか…ありがとうございます。私でできる事があれば頑張ります。」




繊細…確かにそうかもしれない。急に家族だとか言われて、他人が家にズカズカ入りこんで、トキヤが怒るのも無理はない。だけど、これから学園生活だし、トキヤのこと、もっと考えなくちゃ。

早乙女校長が真面目に語る姿はとても重みがあって、きっと心配してくれているのだろう。
校長室をあとにし、Aクラスへと向かった。




「あー!やっぱり。受験の時にいたよね!」


教室に入ると赤髪の男の子が話しかけてきた。
何というか…ワンコのようにコロコロと笑ってとても愛嬌がある。

だけど、受験の時の私と言えば必死すぎて周りなんてまったく目に留まらなかったから、誰がいたかなんてまったくわからない。


「え?あの…ごめんなさい。」


「一十木…のえるが困っているだろう。」



申し訳なくて返答に困っていると後ろから懐かしい声がした。
すっと現れたおかっぱヘアは昔と変わらずだったけれど、身長も伸びて、可愛らしかったあの頃とは違い、男性らしさをまとった幼馴染。


「あぁ、ごめんごめん。あ!俺、一十木音也。っていうか、マサこの子と知り合い?」



「あぁ、子供のころ、ピアノのコンクール常連で…「あ〜〜〜!!!可愛いですねー!お名前何て言うんですか?二人ともズルいですよ〜」


「ちょおおおおお!!!?」



真斗が私との関係を説明しようとすると、その更に後ろから身長の高いメガネの男の子が私に抱きついてきた。
思わずおかしな声がでてしまったが、制止しようと試みる。だけどギューっと抱きしめられてウンともスンとも言わない。むしろ苦しい…



「離してやれ四ノ宮。」


「ごめんなさい。可愛くってつい…えっと…」


真斗に止められて四ノ宮君は私を締め付けすぎていることに気付いたようだった。



「…いえいえ、大丈夫です。…私は一ノ瀬のえるです。」


「僕は四ノ宮那月です。よろしくお願いしますね。こちらは七海春歌さんと、渋谷友千香さん。さっきお友達になったんですよー。」


「七海です!よ…よろしくお願いします。」


「よろしくぅ!友千香って呼んでね。」



うわぁ…美男、美女揃い…。
一十木君、真斗、四ノ宮君、七海さん、渋谷さん…さすが芸能学校だと圧倒される。



「えっと…春歌ちゃんに友千香ね。私のことは好きに呼んでね。」


早速素敵な友達ゲット!
よくよく話を聞くと、どうやら那月君とは同い年で、他は皆年下らしい。
皆大人っぽいなぁ…春歌ちゃんは可愛いけど!



「しかし、のえるがアイドルとは…まさかここで再会するとは思わなかったな」


「アイドル!?まさか。私作曲家コースだよ。」


「ええ?そうなんですか!?私もなんです。」


春歌ちゃんも作曲家志望なんだ…どんな曲を作るんだろう。
周りの皆は私が作曲家志望であることに驚いていたけれど、むしろ私がアイドルなんて有り得ない。



「はいは〜い!皆席について。HR始めるわよ〜」


教室の戸がガラリと開いて、ピンク色の髪をなびかせて登場したのはトップアイドルの月宮林檎だった。


ほ…ホンモノすっごい可愛い!!!
男とは思えない女子らしさに感動していると席に着くように促された。


「おはやっぷ〜♪これから1年間、あなたたちの担任になった月宮林檎よ。よろしくね」


簡単な挨拶を終えると、一年間どのように授業が進められていくかの説明がされ、初回のパートナー選びとなるくじ引きが開催された。




「えーっと…あ、一十木君。よろしくね」


「やったー!のえると一緒なんて嬉しいなぁ。あ、音也でいいよ。」


「うん、じゃあ、音也。改めてよろしくね。」


音也がニカっと笑って握手を求めた。
これからしばらく、音也のためにいい曲を作らなくてはならないと思うと緊張するけれど、同時に心が弾むようだった。




今日は入学式と学園内の案内、説明のみで終了となって寮に帰るべく支度をしていた。


「ちょっといいか」


支度が終わる頃、真斗が話しかけてきた。
いつも真面目ではあったけれど、とても真剣な面持ちだったため寮の片づけもあったけれど、話をしようと一緒に寮まで帰ることになった。

寮へ向かう途中、歩道にはベンチやテーブルが設置されていた。
芝生へ入り、木陰に入ると真斗が口を開いた。



「話したくなければ構わないのだが…苗字が…」


「あ、うん。今年の2月に母親が再婚したの。それで、若槻から一ノ瀬に変わったんだよ。1か月だったけど、家族皆で暮らしてたんだよ。引っ越しばっかりしててお陰で荷造り上手になっちゃったよ。」


本当に真面目すぎる…けれど家族を大切にしてる真斗だから、私の苗字が変わったことには敏感になったのだろう。


「そうか。色々気も遣っただろう?困ったり悩みがあれば俺でよければ相談に乗るから、いつでも言うのだぞ。」


「あはは、真斗ってば、本当に心配性。大丈夫だよ。ありがとうね。」


真斗の優しさが昨日の事情で荒んでいた心を少し軽くした。
だけど、こんなこと誰にも言えるわけがない。


話したところで心配をかけるだけだから。
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