01


「あ…いやぁ…」



「『嫌』…?どの口がそんなこと言ってるんですか?」



「ぅ…ひぁあっ…や、やだ…トキヤ…」






風が強く、雲一つない月夜…まるで夜の闇を消すかのような月光が窓辺から降り注いだ。
まだ少し肌寒い風が窓のガラスをカタカタと奏でて、私と、トキヤの声と混ざりあう。それを更に彩るように、私のものなのか、トキヤのものなのかわからない粘着音が繋がった部分から私の耳を犯すように響いた。



「あまり声を出すと父と真琴さんに聞こえてしまいますよ。」


「ふぅう…ぁ…ふ…」


トキヤの顔がニヤリと笑って酷いことばかり口にする。
強い刺激に声が止まらない私を見下ろして、それでもガツガツと最奥を突く。
声が漏れないように、自分で自分の口を何とか塞いで、声を抑えることで必死だった。



「さすが、“両親想いの姉さん”ですね」


































あれは、まだ年明けの寒さが続く時だった。
私の母親は芸能界で敏腕プロデューサーとして働いていた。そんな母が突然、「会わせたい人がいる」と言ってきたのだった。

受験シーズン。
普通の高校に通っていた私も隠れ受験生…倍率200倍と言われている早乙女学園を受験するため、毎日スコアと睨めっこしていた。しかし、私を育ててくれた母に幸せになってもらいたくて、私は快く新たな家族を受け入れようと決めたのだった―――



















「おやすみなさい。」


「…」



一方的なその行為が終わり、虚ろな私に弟のトキヤは身なりを整えると、振り返ることもなく新しい私の部屋を後にした。

乱れた姿のまま脱力してトキヤが出て行ったドアを見つめていると、景色が霞んで見えた。

暖かいものが自分の肌を伝った時、初めて自分が涙を流していることに気付いたのだった。

















「おはようございます。」



いつの間にか眠っていたようで、朝起きた時にはもう朝日が窓から降り注いでいた。服を着替え、1階のリビングへ降りると、すでに起きていたトキヤがテーブルに座って笑顔で私に挨拶をする。
昨日の出来事を思い出して、ビクッとすると、奥のキッチンから声が聞こえた。


「のえるおはよう。もう、春休みだからってダラダラしてないでトキヤ君を見習う!」


「…いいじゃん、休みなんだから。」


今日も仕事の母親は朝からテンションが高い。
ただでさえ朝は弱いのに、昨日の事もあり余計に気怠さの増していた私はため息をついて椅子に座った。


「…大丈夫?具合でも悪いの?」


「ううん!全然!!ただ、昨日ちょっと…夜更かししちゃって寝不足なだけ…」


不意に近づいてきた母親が心配そうに顔を覗き込んだ。
ハッとしてその場を取り繕うように笑顔で対応すると、少し不思議そうにはしていたけれど、ちゃんと誤魔化せたようだった。



「そう、ならいいけど。トキヤ君、今日1本目ウチでしょ?車一緒に乗ってく?」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきますね。」


「いいのよ〜。まさか、この私の息子がHAYATOだなんてっめちゃくちゃ自慢の息子よね
〜」


「私の母が真琴さんみたいな敏腕プロデューサーだなんて、こちらこそ自慢ですよ。」



プロデューサーの母親とトキヤは昔からの知り合いで、パパさんと出会うより前にトキヤ…HAYATOと仕事をする仲だったらしい。だから、二人の仲はとてもいい。
トキヤが昨日、あんな脅しのような事を言っていたのを思い出すと、どうしてなのか全く理解ができなかった。


「あら、上手。のえるもずっと「HAYATO様ー!」とか言ってめちゃくちゃ大ファンだったしね。」


「お母さん!!!」


「ふふ、やはり家族が増えると楽しいですね。」


お母さんめ…余計なことを!!!

私がHAYATOファンだった…いや、きっと今でもテレビでHAYATO様を見たらきっと胸がトキメクと思う。だから余計にトキヤには知られたくなかった。
私が恥ずかしくて怒っていると、トキヤは楽しそうに笑うのだった。


「よかったわ。まぁ、2人ともあと1週間で寮生活だから、もうちょっと母親らしいことしたいんだけど、仕事がやっぱり忙しくって…ごめんなさいね。」


「それは、父も同じなので。」



早乙女学園へ入ったら寮生活…両親の提案で、少しでも家族と一緒に暮らそうということになり、春休みの1か月は共に暮らすことになったのだった。










「のえる、留守番よろしくね。今日はいくつか仕事があるから帰りは深夜すぎるけど…トキヤ君今日の仕事は?」


「私は1本だけなので、午後には仕事は終わりです。あとは少しレッスンをして帰ろうかと思っていますが…」


2人の支度が済んで、出かける間際。トキヤはそんなに遅くならないらしい。それを聞いた私は「じゃあ、お父さんとトキヤと3人分の夕飯作っておくね」とトキヤに話しかけた。少しでも姉弟らしく過ごさなくちゃ…家族にならなくちゃ…そう思って必死だった。


「ありがとうござます。姉さんの作る夕食、楽しみにしていますね」






トキヤが笑顔で返してくれて、ホッとした私は二人を見送ったのだった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -