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トキヤが私を好き…あの告白から一週間経った。
結局自分の気持ちはトキヤに言わぬまま、練習が始まり、曲の編集を行ってあっという間に時間が経っていた。
それに、トキヤは前より優しくなった。2人きりになっても全く手を出さなくなった代わりに目が合えば微笑んで見せた。曲のアレンジを一緒にあーでもない、こーでもないと語り合って、納得できた時には共に喜んだ。
トキヤの笑顔にまだ慣れずにひきつる私の顔を面白がって、馬鹿にしながらも笑うトキヤは本当に自然で清々しかった。
そんなある日、練習に向かおうと教室を出ると、思いつめたような顔で音也が呼び止めた。今日は朝から元気がなさそうで、皆で心配していて気がかりだった。
空いている部屋に入ると、音也の表情が更に曇る。
「音也、今日元気ないよ?どうしたの?」
「トキヤから聞いたんだ、俺。…話を聞いたら、やっぱり諦められなくなっちゃったよ。トキヤじゃなくて俺を選んで。」
「…」
トキヤはどこまで話したのだろうか。トキヤにされてきた残酷な行為は消えることはない。最近の忙しくも晴れ晴れしい毎日に忘れかけていたものが思い出されて寒気がする。
「トキヤが君を好きだから弟になったのが嫌で嫌がらせばかりしていたって。いつも泣かせてばかりいたって。あんなにキツく当たられてものえるは我慢して…辛かったよね。ごめん、俺…何にもしてあげられなくて。」
音也は本当に優しい。何も知らない音也が謝ることなんて何一つないのに。
けど、あの一件でトキヤは音也にちゃんと伝えたのだろう。
「ごめんね、音也。私も…トキヤが好きなの。
前は弟だって思って家族をめちゃくちゃにしてやるなんて言うトキヤが怖かった。だけど、やっぱりトキヤの曲を作っている時に気付いたの、まだ一緒にいる時間は短くてもトキヤのことが好きなんだって。」
「…のえる」
「この想いは伝えないつもりだけど。いつか大人になって、お互い歳をとったら、昔好きだった〜なんて言える日が来ればいいなって思ってる。」
「そんなの悲しすぎるよ。お互い好きなのに、どうして。」
「いいの、恋愛禁止だけど、思う事は自由だからってトキヤも言ってくれたし、トキヤの本心が聞けてよかったって思ってる。だから、卒業して、一緒にプロになって、トキヤが私の曲をいっぱいいっぱい歌ってくれたらそれが一番幸せ。」
恋が叶わないのは辛いかもしれない。だけど、その代りに歌がある。
私の夢が叶うならばそれでよかった。
私が話し終えると音也が近付いて私を抱きしめた。
「やっぱり納得できないよ。」
気付いた時には私の背中は部屋にあったソファへ沈んでいた。見上げると音也の苦しそうな顔が視界をいっぱいにした。