20

ガタンッと荒々しく閉められた扉にビクリと体を震わせた。 


「あ、あの…トキヤ…これは、その…」


「はぁ…」




良からぬ空気に何とか弁解しようと考えていると、頭を抱えて大きなため息をするトキヤ。よくわからずに私の頭は「?」でいっぱいだ。




「?」


「私が練習室に向かったら一足早く音也が入って行くのを見ました。」


「…」





どうしよう、ものっすごく最初の方から見てるんじゃないのかトキヤめ。
トキヤが音也に嫉妬して怒ってる訳はないけれど、ピリついた空気から完全にトキヤの怒りを感じ取っていた。私が黙ったままでいると、トキヤはため息をついた。





「音也はのえるに告白したのですね。」


「ぅえ!?…えーっと」





やっぱり…やっぱり全部知ってるーーー!!!
何とも言えない威圧感からとてつもなく居辛さを感じる。




「のえる…どうしてです?貴女はHAYATOのためにこの学園に入ったのではなかったのですか?私はもうHAYATOとして活動はしないから、だからダメなのですか?」


「違う!…違うよ。HAYATO様の歌よりも…家でたまに私の練習に付き合って歌ってくれるトキヤの歌声が好きだった。機械的じゃない、何だか楽しそうな気がして…ただ、ちょっと口遊む程度だからよくはわからないし、本番でもないし、ただの素人が作った曲を気ままに歌うだけだから違うのかもしれないけど…私は、」







トキヤの本音を始めて聞いたような気がした。ずっと私がHAYATO様を追いかけていたことは本人であるトキヤが一番知っているのはわかっている。だけど、HAYATOとしての活動を引退することを知ってトキヤに対して熱がないなんて嘘だ。始まりは確かにHAYATO様だったかもしれない。けど、トキヤと出会って、トキヤを知りたいと思った。いつの間にか私はトキヤの曲を作ることが夢であって目標になってた。

言いかけた瞬間、トキヤが私を引き寄せてふわりと抱しめた。



「のえるっ…」


「ちょ…トキヤ!?」


「音也に対してあんな風に笑うのえるは見たくありません。私は…私は…のえるが好きなんです。音也にも、他の誰にも渡すつもりはありません!」


「…え?」


「すみません、今までずっと貴女を苦しめて、泣かせてばかりしてきました。ですが、私は、のえるが姉になると紹介される前から貴女を想っていた…また会いたい、話がしたい、私の事を知ってほしいと思っていたんです。だから、貴女が私のために曲を作りたいと言ってくれて本当に嬉しかったんです。」




さらにギュッと抱しめる力が増した。トキヤの手が少し震えていえることに気付いて、抵抗できなかった。…いや、抵抗するつもりもなかった。




「トキヤ…」


「…すみません。憎かったんんです…貴女のお陰で、私は本当の私で勝負する勇気が出た。自分の歌が機械的で心がないと認めることができた…だからのえる、貴女をこの学園で探し出して、私の想いを知ってほしかった。ですがそれより前に、貴女は私の姉として母親と共に現れた。どうして両親が結ばれることで、子である私は好きな人と結ばれることができないのですか…。他人の私を家族と言ったとしても、本当の家族にはなれない…あなた達は勝手に家族ごっこをして、私の気持ちなど無視してどんどんすすめていった。形は家族でも、私にとって母親は私を生んだあの人でしかなくて、真琴さんは仕事のプロデューサーでしかない、のえるは私の好きな人でしかないんです…家族にはなれません。だから、壊そうと思ったんです。」


「トキヤ…ごめん…私、トキヤと家族にならなくちゃって思ってた。お母さんのために、自分のために素敵な家族にしたいって思ってた。それが、トキヤを追いつめていたなんて知らなくて…本当にごめんなさい。」






トキヤが私を好き。
そして、トキヤが苦しんでいたことを知った。もし、私がトキヤと同じ立場だったら、トキヤのような事はしないけれど、家族と受け入れることはできなかったと思う。





「いいんですよ。のえるは本当にいい姉さんをしていましたよ。まぁ、妹…っと言う方がしっくりきますけど。」


「なっ…あのね、今すごく真面目な話してるんでしょうが!」


「えぇ、すみません。でも、やっと言えました。貴女が好きだと…そして、貴女が私の曲を作りたいと言ってくれた事がとても嬉しいんです。ありがとうございます。…私も、自分の事しか考えていなかった。けれど、のえるの曲が素直に心に入ってきて、のえるが私に対して真心を込めてくれた曲で、これではいけないと思わせてくれたんです。」




いつの間にか離された躰は何故か寂しさを覚えて物足りずにいた。
トキヤが冗談を言ったこともあったけど、トキヤの素直な気持ちと優しい笑顔がその場をとても和ませていた。






「トキヤ…ありがとう。あのね…私も、」


「あぁ、そうそう。ここは恋愛禁止ですが思う事は自由みたいなので、とりあえず宣戦布告と言うことで。」


「ちょっと…!!!」




トキヤは何だか満足そうでいるけれど、私の気持ちは無視かーーー。






「ここまで酷いことをしてきたのです、どうせ私の事など嫌いでしょう?ただ弟だから、家族だから守ってきただけ…これでこの話は終わりです。これからは良きパートナーとしてよろしくお願いしますね。さぁ、無駄口を叩いていないで早く練習を始めますよ。」


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