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寿さんの誘いを断った後も、急にラジオの生放送に出てほしいとオファーがあったとマネージャーから伝えられ、結局帰らなかった。次の日も仕事が立て込んでいたため、近くのホテルで2日程過ごしていたため、仕事を終えて久しぶりに学園の学生寮へ帰った。土日でたまたま通常授業がなく、自主勉強と選択授業のみで助かった。

帰る頃にはすでに22時を過ぎており、薄暗い学園敷地内を歩いていると、ここ数日の疲れが徐々に身体に伝わる。自室入口の扉を開けると部屋の方から音也の奏でるギターの音が聞こえてきて、なぜか少しホッとした自分がいた。
HAYATOではない、自分の帰る所だ。



「ただいま戻りました。」


「あートキヤ!お帰りー。実家はどうだった?」


「まぁ…普通ですよ。」


「何だよそれー!のえると選択授業で一緒だったんだけどさ、トキヤが実家に帰ってるって話したらのえるちょっと驚いてたよ?教えてなかったんだ?」


「えぇ、姉が選択授業を取っていることも知っていましたし、特には話していませんでしたから。」


「そうなんだ。でもさ、やっぱりのえるって超凄いよね!一緒に即興でセッションしたんだけど、先生に褒められちゃったんだ。」



またのえるの話…
曖昧な返答をして、受け流すとそのまま浴室へ向かった。































風呂から出ると、ゴロゴロとベッドに寝転がっている音也がジッとこちらを見た。


「いいなぁトキヤ。」


「何がですか。」


「今度のえるとペアじゃん」


「…」


「あれ、知らなかったの?昨日の朝発表されてたよ、次の課題。今度はクラス混合のクジでペアを組んで、その課題後に最終的にパートナーを決めるみたい。」



そう言えば仕事中何件かメールが来ていたけれど、見てはいなかったことを思い出した。急いで携帯を確認すると、のえるからのメールと着信があった。


「音也、ちょっと出かけてきます。」


音也の返事も聞かぬまま、急いで部屋を出た。
メールにはペアになったこと、すでに何曲か考えているという内容が記されていた。すぐに、のえるの曲が聞きたい。ただそれだけだった。


上がった息を整えて、扉をノックすると奥から「はーい」と声がして扉があいた。
扉からちょこっと顔をのぞかせるのえるは私と目が合うと少し驚いているようだったがすぐにニコリと笑った。

夜、更に女子寮に男子生徒が居るのは良くないと言い、部屋へ入るよう促された。
どれだけ屈辱を与えてもめげない変人か、相当なお人好しか、ただの馬鹿なのか。
怪訝な目で見ていると、不思議そうに首を傾げているのえる。

やはり、ただの馬鹿でした。



「トキヤ?」


「あぁ、いえ…すみません、仕事で返信できませんでした。」


「いや、別にいいけど…仕事忙しいんでしょ?だけど、HAYATOじゃなくて…トキヤだけの曲出来たから…早く伝えたくて。ごめん。」


遠慮がちにのえるが話す。

いつだってのえるは私の夢を実現させようとしてくれる。昔も、今も…
だから私ものえるの夢を叶えられるようにしたかった。



「今度は、貴女のお節介に従ってみたいと思います。音痴になります。」


「は?いや、音痴じゃ困るんですけどトキヤさん???」


前回のペア…音也はのえるの作った曲を心で歌っていた。だから少し音が外れようともまるで曲が音也に合わせるように味を出す…きっと共に作り上げた曲で、歌い手が心を籠めて歌ったからなのだろう。


「HAYATOの事は考えずに、自分の歌いたいと思う通りに歌うよう善処します。だから…」


「だから?」


「それなりの曲を作っていただかなくては困ります。」


「いやいやいや無理!!!なにそのプレッシャー。」


プレッシャーをかけたつもりはないのですが。
物凄い顔でそんなに全力否定しなくても…


「貴女が言ったのですから、それなりのことはしていただかないと。貴女の曲を家で聞いていた私が今まで文句を言ったことがありましたか?」


「ある…と思うけど。そうじゃなくてこうした方がいいです、それでは幼稚ですとか言われたの今でも悔しいんですけど。」


「それは文句ではなくアドバイスです。」


「うわぁ…」


「何か言いましたか」


「いいえ何でも。でも、わざわざ来てくれなくても明日学校で渡そうかと思ってたんだけど、何だかごめんね。」


「聞かせてください。」


「明日でいいよ。」


「今です。」


「…」


「…」


「あーもうわかったって。でもまだメロディラインだけしかできてないからね!?」


「いいですよ」



無言の攻防戦に勝ち、曲を聴くこととなった。
ため息をついてデッキに手をかけるのえるは少し不服そうだけれど、私は貴女が作った私のためだけの曲が聞きたくて堪らなかった。ソファに腰を掛けると手書きのスコアを渡され、曲が再生された。








♪〜♪〜〜♪〜〜〜





















「このバラード…これがいい。」


4曲聞いた所でデッキからピアノの音が消えてカチャリと停止を知らせる機械音が部屋に響いた。
どの曲も良かったけれど、一番最初に聞いたバラードの曲が自然と耳に入って落ち着いた。すぐにでも歌いたくなるこの旋律が離れない。


「やっぱり?これが一番最初に思い浮かんでトキヤっぽいなって思ったの。でも、まだもうちょっとできそうだから、待って。トキヤに合う、もっといいのが思い浮かぶかもしれない。」


スコアを見つめていると、のえるが私との距離を縮めて同じスコアを横から覗き込んだ。自然と私の太ももに置かれた手が気になる。

楽しそうに私に微笑みかけるのえるの顔にドキリと鼓動がざわめいた。




「ずっと私のことばかり考えて作っているのですか?」


「え…っと」


「それならばもっとエロティックなものが浮かぶと思いましたが…本当に理解に苦しみます。」


クスクスと笑うと、のえるは驚いて私と距離を取る。
少しからかっただけだったが、頬を赤らめて困ったような顔が“あぁ、もう少し…”と私の心を動かすのだった。


のえるの手を掴むと引き寄せて唇を寄せる。

わざとリップ音を響かせてやると更に顔を赤くして戸惑うのえる。


「やっ…」


「拒否されるとねじ伏せたくなりますね。」


「トキヤ!」


腰に腕を回ししっかりとガードしているため、後ろへ下がろうとするのえるはびくともしない。
そのままソファへ押し倒すと、またゆっくりとキスをする。


「気分がいいので優しくして差し上げますよ」


「いい、しないってば。」


「拒否権はないと、いつも言っているでしょう?」


覆いかぶさる私の胸をグイグイと両手で押し上げているが、その手を取ってソファへ沈ませるとギシリとスプリングが軋む音がした。


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