14

side Tokiya




私を叱った後、競技へ向かう足取りが少しふら付いていることには気づいていた。

気付いていながら止めなかった。止められなかった。


モヤモヤしたままのえるを見れば、きっとまた酷くしてしまいそうだった。
けれどのえるが倒れたと日向先生より聞いた時、頭が真っ白になって柄にもなく日向先生に向かって大丈夫なのかと声を少し荒げた私を、先生は驚いていた。


保健室へ向かうと、ドアが少し開いており、隙間から見慣れた赤髪のルームメイトがベッドへ寝ているのえるに寄り添い頭を撫でていた。

「…音也」


声を掛けようとすると、音也は不意に立ち上がり、寝ているのえるの唇に自分の唇を軽く押し当てた。






音也が…。確かに前回パートナーとなって、とても仲が良いとは思っていたが、音也がのえるに想いを寄せているとは正直驚いた。





保健室から出てくる音也に見つからぬよう、廊下の影に隠れてしまった。

音也と今鉢合わせてしまったら、きっと私は正常ではいられない。



私だけしか知らないのえるに触れた音也。


子供がおもちゃを取られたような感覚と、壊したくて壊そうとしているわけではない彼女に、何の捕らわれもない優しさで彼女に触れる音也への嫉妬。



ギリギリと心が痛くて醜い自分が心底嫌になった。







「んん…あれ、トキヤ?」


「大丈夫ですか?軽い熱中症だそうです。起きたら水分を飲ませる様にと先生がおっしゃっていましたよ。」


しばらくして気を取り戻したのえる。
…どうしても唇に視線が行ってしまう…


「って、運動会は?」


「あの後、急な嵐と共に四ノ宮さんが大地を割ったので途中中止されました。」


「え?ん??那月君???…それで、あの、運んでくれたの?ありがとう。」


あの悲劇を見て居ないのは幸せでしょうね。
運動会は途中中止となり、今回の結果は引き分けとなったのだった。


保健室まで運んだお礼を告げるのえるは申し訳なさそうな表情をしていた。
運んだのは私ではありませんよ。
私は貴女を放置した酷い男ですから。


「お礼ならば音也に言いなさい。」


「音也が運んでくれたんだ…ヤバ…体重ちょっと増えたんだった…」


「今更ですよ」


「酷っ…」


徐々に調子を取り戻して会話をし出すのえるをからかうと、真面目に傷付くからまたその反応が可愛らしかった。



「それよりも…」


私は衝動には勝てなかった。
のえるが音也にキスをされて、音也が運んでくれたことを微笑んでいるのえるに私だけを刻みたかった。
ベッドから半身を起こしていたのえるをまたベッドへ押し倒した。


「…あの、トキヤ」


「何ですか」


「ダメだよ…」


先程まで、笑ったり怒ったり拗ねたりとコロコロ表情を変えていたのえるが、とても困ったような怯えたような表情を見せた。そんな表情にもゾクリと私の心が跳ねるようだった。


「そう言えば、水を飲ませなければなりませんでしたね」


のえるに跨ったまま、脇にあったテーブルの上のペットボトルを手に取り、中の水を少量口に含んだ。
そしてのえるの顎を捕まえると無理矢理唇を割って水分を移動させる。舌を絡めて水分と共に味わうとのえるから艶めかしい声が漏れた。


「ふぁ…ん…」


「ちゃんと零さず飲んでください。」


飲みきれずに唇からこぼれた水分が頬を伝ってシーツに小さな染みを作っていた。
冷たく笑う私を見つめながらイヤイヤと首を横に振ったのえる…赤く染まった頬と、涙ぐんだ瞳も誘因剤にしかならなかった。
胸のふくらみを強く揉みながら首筋に舌を這わす。汗の所為か少し辛みの味がした。


「んんん…ふぁ…」


「やだぁ…トキヤ…」


「あまり大きな声を出すと、他の生徒に聞こえてしまいますよ。」


「っ…」


身をよじって抵抗するのえるをいつもの様に黙らせる。それでもグイグイと下から私の胸を押し上げて嫌がる彼女に更に追い打ちをかけた。
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