06
side Tokiya
入学式を終えて、放課後…寮へ向かう最中に見てしまった。
紺青の髪をなびかせた男子生徒とのえるの姿。
入学して早々、嫌なものを見た。
ニコニコ笑って、一体何をしているのでしょうか。
「おや、イッチー。何してるんだい?」
「レン…貴方こそ、取巻きの彼女たちはどうしたのです?」
受験の時に知り合った神宮寺レン。珍しく周りの女性がいなかった。
「今日は引っ越しの荷物を整理しなくちゃだしね。少しお茶してそのあと別れたよ。…ん?聖川?」
「知り合いですか?」
「あぁ、聖川財閥の嫡男さ…俺のルームメイト。入学式早々、レディと楽しそうだね。奴も昔と大分変ったのかな…」
聖川さん…優しそうな物腰ですね。
「イッチー?」
「あぁ、いえ。すみません。」
「…ねぇ、気にならない?行こうか。」
2人を見つめていると不思議そうにレンが私を覗き込んだ。
私としたことが、一瞬心まで覗かれたようなレンの瞳にドキッとした。
するとレンは何を考えているのか2人の元へ行こうと言い出した。
「ちょ…レン!?やめなさい。コラ。」
否定をした私を無視し、腕をグイグイ引っぱっていく。
ついに2人の元へたどり着くとバツが悪くてレンよりも一歩下がって黙り込んだ。
「やぁ、レディ。そんな男より、俺とゆっくり話でもどうだい?」
「え…あの。…あれ?トキヤ?」
「おや、知り合いだったのかい?」
「えぇ…まぁ。」
レンがのえるに話しかけると、なぜか私にも気付いて話しかけてきた。
空気が読めないとはまさにこれですね…
とりあえずレンの問いかけに返事をするとハァ、とため息をついた。
「神宮寺。貴様は本当に変わらないな。」
「まさか聖川がこんな可愛いレディと二人でイチャついているとは思わなかったよ。」
「イチャ…!!?そんな訳なかろう!!!俺はのえると真剣に…」
「おやおや、名前で呼び合う仲かい?」
“可愛いレディ”“イチャついている”“名前で呼び合う仲”
レンと聖川さんの会話に聞かれるのえるの事…
のえるを見ると喧嘩が勃発しそうな雰囲気に困っているようだった。
「あの…本当に、真斗は私の幼馴染でイチャついていた訳では…」
「あぁ、そうそう。自己紹介がまだだったね、俺の名前は神宮寺レン。よろしくね。」
ついに仲裁に入ると、聖川さんとは幼馴染であると聞かされる。財閥の嫡男と幼馴染だなんてどういう事なのだろう…思えば家族になってから、私は“姉”であるのえるの過去についてほとんど知らないという事に気付かされた。
私が知っている事といえば、彼女がHAYATOのファンであること…家族想いだという事…
「神宮寺さん、よろしくお願いします。私は一ノ瀬のえるです。」
「レディにぴったりの可愛らしい名前だね。…ん?一ノ瀬?」
「…私の姉ですよ。」
ついに口を開いた私は率直に答えを発した。
すると、聖川さんもレンも鳩が豆鉄砲でも喰らったかのような顔をしていた。
「「姉!!?」」
「はい。一応…」
私が姉であることをあっさり口にした事にのえるも驚いているのか、私の様子をちらちらと伺っていた。
そんなのえるに近づくと、ガッと腕を掴んで引っ張った。
「では、聖川さん、レン。私達はこれで。」
「え!?ちょっと、トキヤ?」
のえるはどうして引っ張られているのかわからず静止を求めていたけれど、私はそれを無視して寮へと向かったのでした。