レンと付き合って5年。
はっきり言って期待する。けれど誕生日も、クリスマスも何もなかった。レンの誕生日でバレンタインデーな2月14日もプロポーズを期待していたのにされなかった。
男性アイドルは何歳になってもファンからキャーキャー言われ続けて、特にレンは毎年その色気を増しつつも、バラエティ番組にも積極的に出演してはトークもできるし笑いだってとれるようになってきているからファンも一層増えている。仕事に打ち込むには今が大事な時期であることも理解しているが、ここまで何もないと不安にもなるものだ。
挙句、3月13日…早々にホワイトデーと言ってお返しとして有名パティシエのホワイトデー限定のお菓子の詰め合わせを貰った。…と言うことは、やはり何も起きない、と言う事だ。


「明日ホワイトデーだから、この前のお返し。」

「そっちのおっきい袋は何?」

「あぁ、これは義理チョコ?のお返しだよ。」


番組スタッフや共演者からはチョコが苦手なレンを気遣って高価なお酒や雑貨、その他あからさまにこれは本命だろうって言うプレゼントも混ざってたけれど、大量のお菓子が入った紙袋は私のそれとは違った小袋で、箱で貰った私は特別なのかな、と安易な頭が打働いていた。けれど、今欲しいものは物ではない私は複雑な気持ちのままだ。


「ありがとう。」

「今夜空いてるかい?仕事の後だから23時すぎちゃうけど…会いたいな。」

「うん、私も会いたい。」


レンが此方を伺うように見ていた。普段は恰好付けてセクシーなレンが甘えてくるみたいで、そんなレンがやっぱり好きだ。
レンの家で会う事を約束し、互いに仕事へ出かけたのだった。


*********


収録は友千香と一緒だった。このあとの予定を聞かれて、夜遅くにレンと会う事を伝えたら「相変わらずラブラブですなぁ」とニヤニヤ笑っていたが、私の様子に気付いて夕食に誘ってくれた。


「ねー友千香、やっぱり結婚と恋愛は別なのかな。」

「は?あんたまた神宮寺さんと何かあったの?」

「いや、何もなさすぎて困ってる。」

「神宮寺さんが結婚だなんてファンが黙ってないでしょ。神宮寺さんもそれを懸念してるのかもね。っていうか、結婚結婚ってせがんだりしてたら男からしら重いわ、マジで。」

「友千香ぁぁああああ!!!」

「泣いても叫んでもダメなものはダメ。」


せがんではいないが、ひしひしと何かを期待している自分を隠しきれていない私はやはり重い女なのかもしれない。友千香のアドバイスが胸に刺さって痛すぎた。
駄目だししつつも話を親身に聞いてくれて、気付いた時には夜も更けていい時間だった。
友千香と別れた後、レンから仕事が終わったという連絡が来て急いで電車に乗り込んだ。


**************


「いらっしゃい。部屋で待ってればよかったのに。」

「仕事のあと友千香とご飯食べてたら結構時間過ぎちゃって。もうすぐ12時すぎちゃうね…レンも遅くまでお疲れ様。」


レンのマンションに着いたのは日付が変わる少し前。
いつもならスマートに腰を抱いていつの間にかベタベタしてくるレンが、少し素っ気ない態度に仕事が忙しかったのかな、と思いながら部屋に入った。


「そうなんだ。何食べたんだい?俺は撮影の合間にブッキーの所の唐揚げ弁当を食べたよ。」

「居酒屋で色々摘んでた。この前スタッフさんに教えてもらった創作料理のお店。あ、嶺ちゃんと言えば、この前の2人でゲストに出てたバラエティ番組良かったよ。」

「本当?」

「うん、レン面白かった。とっても頑張ってたし、何か意外。身体張るタイプじゃないのに真剣にやるんだもん。笑っちゃったよ。」


ソファに座って出されたコーヒーを飲んだ。ドリップされたそれは香ばしい香りがしてほっとさせる。時計を見ると日付が変わっていて深夜番組が終了間近のようだった。
レンが出演していた番組はチェックしているが、最近バラエティでの露出が増えたレンは面白い。あはは、と笑うとレンが頭を掻いて顔を赤らめた。


「そ、そうかい?名前にそう言われると何だか照れるな…」

「ふふ、顔赤い。」


隣に座ったレンが緊張しながらどことなく照れている姿は何だか可愛らしい。赤く染まった頬に触れるとレンの少し垂れた切れ長の瞳が此方をジッと見つめた。
いつもなら照れながらも自分のペースを崩さない様に甘い言葉を紡いでは私の方がより照れるのを待つレンなのだが、今日に限って沈黙が訪れた。沈黙は緊張を生み出して、どうしていいのかわからずにいると、レンがそっとポケットから小箱をだした。


「ねぇ名前、俺と結婚してくれないかい?」


レンが不安そうに瞳を揺らして此方をジッと見続ける。手には綺麗に光るダイヤのついたリングがあって、その手が少し震えていた。
ずっと期待していた言葉を受けたのに、実際に受けてみると、緊張が走っていたせいもあって上手く言葉がでない。


「…え、あの…ほんとに…?」

「嘘でこんな事言わないよ。愛してる。結婚して欲しい。ずっと3月14日に言おうって決めてたんだ…去年くらいかなぁ。」

「えええ!!?何で!勿体ぶりすぎじゃない?ホワイトデーがそんなに重要だったの?」


去年…去年?それってクリスマスだって誕生日だって機会はいっぱいあったはず。待ち望んでいた愛の言葉もレンがずっと考えていてくれたという事も嬉しいが、どうして今日なのだろうか。


「違うよ…3.14、円周率。円周率は3.14以降もずっと永遠に続くんだよ…だからそんな意味を込めて、俺と名前の愛が永遠に続く記念日にしたかったんだ。」

「レン…」


ロマンチストだとは思っていたけれど、そこまで色々考えて今日を選んだなんて驚いた。
自宅でお互い仕事の後、デートもなくて雰囲気だっていつもと変わらない日常が、レンの言葉一つでとてもロマンチックで素敵な日に変わった。


「で…その…返事は?」


レンが不安そうに返事を催促した。そんなの“YES”に決まっている。レンに抱き付いて「お嫁さんにしてください。」って答えたら、レンがきつく私を抱きしめ返した。


「よかったっ!…名前、愛してる。」


3.14
永遠の愛をここに誓う

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