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テレビ局を出た後、事務所に戻って龍也先生に報告をした。帰りの足取りはとても軽やかで、こんな気分は久しぶりだ。


「龍也先生。無事お手伝いしてきました。足手まといだったかもしれませんけど…感謝してくださってホッとしました!セシルの歌もとっても伸びやかで素敵でしたよ。」

「…そうか、よかったな!やっぱ、現場は楽しいか?」


龍也先生を見つけて駆け寄った。顔を覗き込んでニコリと笑うと龍也先生が豆鉄砲喰らった鳩みたいな顔で呆気に捕れたようだったが、そのあとふっと笑い返した。


「え?まぁ…デスクワークでパソコンと睨めっこしてるより動いてる方が性に合ってはいるのかもしれません。でも急に何で…」

「久しぶりにお前がスッキリしてる顔してると思ってな。」

「はい。あの…私楽しいって思いました。帰りに春歌や一ノ瀬君、神宮寺君にも会って、皆キラキラ輝いていて素敵だなって…私は春歌みたいに作曲の才能もないし、他の皆みたいにアイドルとしてキラキラ輝くことはできないけど、ちょっとでもそのお手伝いができたら嬉しいです。」

「おいおい、お前はうちの学園のアイドルコース卒業生だぞ?卒業試験はまぁ…色々あったが、Aクラスの優秀成績者で俺は今でももったいないって思ってる。だが、お前にその気がないのに俺がこんなこと言うのもって思ってたんだが…あ、俺だけじゃないぞ?林檎だってたぶんアイツ等だってそう思ってる。」


龍也先生が優しく私を諭した。いつからこんなにも涙腺が緩くなったのだろうか、先程春歌に拭ってもらった涙がまたジワリと出始めるのかわかる。


「…今日は、私を褒めちぎる日ですか?皆も、先生も…林檎先生にメイクちゃんとしろって言われたのに皆が泣かせるからもう顔グッチャグチャですよ。」

「なぁ大倉…諦めんなよ。社長だってお前の才能は惜しがってる、今後の処遇をどうするかって今もすごく悩んでるみたいだしな。」


私がマネージャー辞退を申し出た日、社長は今後の処遇は追って発令と言っていたが、それから何事も無く時間が過ぎていた。社長がそんな風に思っているなんて知らなかった。元パートナーだった彼女が今また作曲家の道を歩んでいて、学園時代の友人たちもまた輝いて自身の道を歩んでいた。中途半端なまま終わった私には眩しすぎて、だからこそそれに憧れた。まだ、自分の将来なんて考えられない、けれど、寿さんとの仕事はとても充実していて、とても楽しかった。それは恋心だけのものではない、私の憧れた世界に通じる私に今できる精一杯だ。


「ありがとうございます。でも私は…やっぱりマネージャーがしたいです!」

「そうか。」


龍也先生が二カッと笑う。「はい!」と返事をすると頭をポンと撫でられて、寿さんとは違う手の感覚にまた、彼に会いたい気持ちがわいた。


*******************


寿さんのマンションに入ったものの、インターフォンを鳴らしても応答はない。仕事を把握していないから何時に帰宅するかわからないし、もしかしたらロケで泊りかもしれない、契約しているあのプライベートルームのホテルに行くのかもしれない。
一度地下に降りると可愛いグリーンのビートルが停められていたからきっとホテルではないだろう。とりあえず待てるだけ待つつもりでまたエレベーターで上の階まで昇った。

日が落ちて星が綺麗だ。まだ肌寒くて息を吐くと白く見える。いつ帰ってくるかもわからない寿さんを扉の前にしゃがんでボーっと待っていると、前に寿さんが自分のマンションでこうやって座っていた姿を思い出した。どんな気持ちで待っていたのだろうか…また寿さんは私に好きだと言って優しく頭を撫でてくれるだろうか…モヤモヤと解決しないことばかり浮かんできてまたため息が白く上がった。


「咲優ちゃん?!…あ、…大倉ちゃん。何してるの、こんなところで。」


カツカツと靴音が響く。音の方を向くと、待ちに待った人物がそこに居た。
とても驚いた顔をして速足で此方に向かってくる寿さんは少し赤い顔をして、コンビニ袋を手にしている。きっと飲んで帰ってきたのだろう。


「この前、寿さんも私の部屋の前でこうしてたじゃないですか。」

「もう!いくら建物の中って言ってもここ外だよ!?心配になるでしょ、女の子なんだから!」


女の子なんだから、と心配そうに私を覗き込んだ顔は懐かしくて、愛おしいと素直に感じたが、私がジッと見つめると寿さんは私の頭に伸ばした手をサッと引っ込めてしまった。
気まずそうにする顔を見て、やはり迷惑だったのかもしれないと思いながらも、寿さんが帰れって言わない限り帰るつもりはなかった。


「大丈夫です。でも、すみません…迷惑でしたよね。」

「そんなことないよ!久しぶり…だね。」

「はい…あの、」


喋り始めるとまた遠くから足音が響いてきた。思わず言葉を止めると、寿さんが鞄から鍵を出してまた困った顔をしていた。


「とりあえず中…入る?あーでも入ったら嶺ちゃん何しちゃうかわっかんないよ〜?」

「お邪魔させてください。」

「あー…えっと大倉ちゃん?まぁいいか、おいで。」


寿さんの顔をジッと見ると、戸惑いながらも部屋へ通してくれることになった。
久しぶりに入る寿さんの部屋は相変わらずだったけれど、何だか落ち着かない私はどう切り出そうかと考えながら通されたリビングのソファに座った。

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