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「咲優ちゃん…何で辞めたのかな。」

「お前が何かしたんじゃないのかよ?あいつ元気なかったしなぁ。」

「龍也先輩ひどっ!僕は愛の告白をしただけですぅ!」

「はぁ…お前なぁ。」

「やっぱり僕の所為…だよね。」


****************



今日は休みだ。中々寝つけずにいた所為か、チカチカ光るスマホが煩わしくて電源を落とした。昼過ぎ、気分転換にと実家に帰ってみた。相変わらず明るい母親が何の連絡もいれずに帰ってきた事に小言を言いながらも手作りの料理でもてなしてくれた。仕事から帰ってきた友達は仕事に仕事のことを聞かれて気まずそうにしていたら「泊まっていくか?」と言われたが、明日の仕事の事を考えて帰るつもりでいたため断った。
マンションに帰ったのは終電の時間帯。近所はシンと静まり返り、自分のヒールの音がやけに響く。今日は冷える所為か空気に触れている頬は痛い位に冷たい。あまり寝ていない体は少し怠くて、リフレッシュもできたのだろうか今日は良く眠れそうだった。忘れぬうちに明日の目覚まし用のアラームをと、オフにしていた電源を入れると事務所のスタッフ、友千香、メッセージと寿さんからの着信が入っていた。スタッフと友千香への返信をしたあと、寿さんのメッセージを確認すると「マネージャーお疲れ様でした。」とだけ書かれていた。そのあとの数件の着信が何を意味しているのかはわからないが、返信をする気分にはなれずにスマホをポケットに突っ込んで、部屋に向かった。
階段を登って角を曲がると、部屋の扉の前に男が一人座り込んでいた。寒そうにうずくまりながらハァっと白い息を吐いて埋まったマフラーから顔が見えた。


「ちょ!!!寿さ…っと自分声デカ。こんなところで何してるんですか。貴方うちの大事なアイドルなんですよ!?」


深夜の静けさで声が響いて自分の声の大きさに驚いた。けれど、それよりもこんな寒い中で寿さんがいつからそこに居たのかが心配になった。私に気付くと立ち上がった寿さんが此方をジトッと見つめた。


「そんな大事なアイドルを無視するなんていい度胸してるよね。」

「別に無視っていうか電源切ってただけで…っていうか、もう帰ってください。明日朝からドラマ撮影でしょ?」

「へー、僕のマネージャー辞めたのに、僕のスケジュールちゃんと把握してるんだ。」

「りゅ、龍也先生のお手伝いをしてると把握することだってあります。」


龍也先生の仕事も把握して自分の仕事を進めていた自分にとってアイドルのスケジュールが見てとれる簡易掲示板は多用する。けれど、癖のように寿さんのスケジュールを目で追っていた。


「僕と会いたくなくてスケジュール把握してるだけじゃなくて?」

「違っ」


そんなことはない。否定しようとすと外の冷たい空気に声が響いて今の状況にハッとした。


「…じゃあさ、事務所の大事なアイドルの相手してくれるかな。」

「ちょっ、やめ。いや…」


手に持った鍵を奪われて、寿さんがドアを開ける。腕を引かれて玄関に入ると、閉まった扉に背中を押さえつけられた。顔が近づいてきたから唇が触れるんじゃないかと予感させて、ギュッと目を瞑ると、寿さんは肩口に顔を埋めて首筋を舐めた。空虚を感じた唇を噛んで声を殺すと、寿さんは構わず身体に手を這わした。



**************


どれくらい時間がたったかわからない。硬くて冷たい床の上に寝転がっている自分の身体をなんとか起こすと、寿さんの顔を見た。その顔は苦しそうな、悲しそうな複雑な表情をしていた。寿さんは私と視線が合うと、ニッと薄く笑って髪を掻き上げた。


「ははっ…また相手してね…元マネージャーさん」


泣くんじゃないかと思うくらい瞳が揺れて見えるのに、寿さんの口から発せられる言葉はものすごく無機質だった。寿さんが出て行き、また閉じられた扉にすぐそこにあった靴を投げると、ガタンと大きな音と寿さんが去って行く靴音だけがやたら耳に響いた。

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