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まいど!アイドルらすべがすの撮影に向かうとすでにランランが前室の椅子に座っていた。


「よぉ。嶺二、お前のマネージャーもういるぞ。」

「どうもお疲れ様です。」

「あー…うん。」


視線もろくに合わせず事務的な挨拶に卒倒されてしまった。咲優ちゃんはやっぱりあのネックレスをしていないし、口を結んでニコリともしてくれない。


「何だよ気色悪ぃ。」

「えーランランひどーい!」

「ウゼえなっ!お前が気色悪ぃからそう言っただけだろ。」


助け船のつもりはないのかもしれないが、ただならぬ空気といつものテンションになりきれない僕を見て、ランランが声をかけてくれた。


「ランランがいじめる〜〜〜!」

「レイジうるさい。」

「アイアイだ。やっほー!今日はゲストよろしくねん。」


今回のゲストはアイアイだ。知った顔が揃ってとても和やかなムードになるはずだった。
相変わらずの辛口トークを全力で受け止めるが、傍に立っている咲優ちゃんのことが気になって仕方がなかった。


「ウザい。」

「同意だな。」

「美風さんと黒崎さん息ピッタリ。」


アイアイとランランの絶妙なコンビネーションにクスクスと咲優ちゃんが笑った。やっぱり笑うと可愛いな、なんて悠長に考えていたらランランが咲優ちゃんの頭をグシャッと撫でて「笑うなコラ。」と悪態をついた。
“あームカツク。僕の咲優ちゃんなのに。”
そんな歪んだ思いが頭を巡った。近づかれても触られても、嫌な顔見せずにむしろニコニコしている彼女を見るのも腹が立って仕方がなかった。


「ふふ、すみません。仲いいなぁと思っちゃって。」

「ったく、まぁいい。お前もいつもと調子違ぇから何か変なもんでも食ったかと思った。」

「ランマルじゃないんだから彼女は何でもかんでも食べないよ。」

「あぁ!?」


今度はアイアイが咲優ちゃんの目の前に立って顔を覗き込んだ。「目の下凄いよ。」って言いながらアイアイの指が彼女の顔に触れる。確かに咲優ちゃんの目の下にはクマがあって、あまり顔色が良くないようにも思えた。けれど、仲間の行動がここまで僕を憂鬱にさせることは初めてだった。


「ありがとうございます。ちょっと今色々忙しくて…。」

「まったく、体調管理は基本だよ。」

「すみません。美風さんの言うとおり、黒崎さんみたいに何でもかんでも食べないようにしますね。」

「おいコラ。何先輩の事ディスってんだよ。」


楽しそうにする3人の輪に、いつもの様に入れなかった。自分だって咲優ちゃんに笑ってもらいたいのに、困らせて、泣かせて、怒らせて…そんな事ばかりの繰り返しだ。「トイレ行ってくるね〜」と言うと「いちいち言うな。」「聞きたくないよそんなこと。」とまた辛口コメントな二人に項垂れながら部屋を出た。



収録後、いつもの流れならば予定がなければこのままランランと飲みに行く。今日もその流れかと思ったが、どうやらランランはこの後仕事があるらしい。私服に着替えて荷物をまとめていると、扉がノックされた。
入ってきたのは咲優ちゃんだった。


「寿さん、次の台本来てました。私はこれで失礼しますので、お疲れ様でした。」


やっぱり視線を合わせずにそのまま部屋を出ようとする咲優ちゃんの腕を無理やり引っぱって、締まったままの扉に押しやった。逃げられない様に自分の手を咲優ちゃんの両側に伸ばす。


「咲優ちゃん…」

「やめてください。ここ何処だと思ってるんですか。」


静かに怒りを帯びた口調で拒絶しながら僕を睨む咲優ちゃん。久しぶりにこんなに長く視線が合わさったというのに満たされないままの心が僕を蝕んだ。どうしたら咲優ちゃんの記憶に僕を刻みこめるのだろうか、どうしたら僕のものになってくれるのだろうか、と打算的な事ばかり考えていた。


「はは、前もそんな会話したね。」


頭を撫でようと手を近づけると、ギュッと目を瞑って肩をうずくめる咲優ちゃんに、どうしてランランには許して僕はダメなのだろうか、と腹が立って仕方がなかった。

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