07
車が地下駐車場に入る。連れて来られた場所はよく言うラブホテルなんかじゃなくて、会員制の高級ホテルだ。アールデコ調の美術品のような作りのホテルは白を基調とした外観に内装は大理石と綺麗なシャンデリアでシックに描かれている。「ここ、撮影場所が近かったり家に帰りたくない時はよく使うんだ。」、そう言ってロビーで手際よく部屋のキーを受け取ってエレベーターにエスコートされた。私の腰を抱く寿さんは実にスマートだ。


「あの…」

「ん?あー大丈夫、ここのスタッフは口堅いから。支配人とバーで知り合って、仲がいいんだ。」


戸惑う私を差し置いて、寿さんは上機嫌でエレベーターの23階ボタンを押すと扉が閉まった。シャンデリアの明かりが灯るエレベーターが静かに動き出した。落ち着かないでいると、クスリと笑って寿さんが抱きしめながらキスをした。


「監視カメラありますって!!っていうかここ公共!!」

「あっははっ!咲優ちゃん真面目すぎ。折角ワガママ全部聞いてくれるんだから、やりたいこと今夜に詰め込まなくちゃ勿体ないでしょ!」

「人の事言えませんけど、寿さん雰囲気ぶち壊しですね…それに、全部聞くなんて言ってません。」


薄っすら目を開けると小さなカメラを捕えてしまい、甘い空気を吹き飛ばした。思いっきり寿さんを押しやると、面白おかしく笑い出した寿さんが私の頭を撫でた。


「そんな減らず口叩けないくらいにしてあげるから覚悟してなよ。」

「っ!!!」

「プッ…可愛い!もう咲優ちゃんホント可愛い!!」


矢を射る様な真っ直ぐな瞳にドキリとした。すると、寿さんはまた笑って那月みたいにギューっと愛でるように私を抱きしめた。
そんなことをしている内に最上階のスイートルームフロアへたどり着いた。部屋の扉がしまるとそのままそこへ背中を押されて唇が襲ってきた。


「ちょ…ヤダ。」

「我慢できない。」


耳元でささやかれてゾクリと体が疼く。首筋に舌が這わせられて粟立つように快楽が訪れる。寿さんがブラウスのボタン外して下着をずらすとそこから溢れた胸をゆっくり、力強く揉み始める。暖かい舌が胸の突起を弄ってビクリと体が跳ねた。


「っ…っ、くっ…ぁ…」

「声我慢しないで、感じてる声聞かせて。」

啄むように徐々に下へとキスをしながらゆっくりとスカートが捲られて下着に手を掛けられた。恥かしさのあまりスカートを押し返すが、何事も無いかのように寿さんが床に膝をつけて此方を見た。優しく笑うと片足を担ぐ形で自らの肩にのせ、内股を舐めた。徐々に中心へと向かう寿さんの舌に期待するように子宮が疼く。


「やぁ!…寿さん…ダメ、汚いです…やだっ」

「そんなことないよ。」

「っあぁ…や、あ、あ…やっ…んはぁ…だめ、汚い、から…お風呂っ…ぁ…」


指で広げられたそこを舐められると、グチュリと露骨に音がして、どれだけ濡れていたのか知らしめられた。秘芽を吸われながら舌が円を描く様に弄ると膝がガクガク震えて立っていられない程だ。


「立ってられない位気持ちいいの?こんなに濡らして期待してた?」

「っ!!」

「ふふ、可愛いね。お風呂行こっか。」

「え?」


いつもなら、こちらの発言なんて聞き入れずに強引に自分のやりたいことを遂行するこの男が、初めて意見を聞き入れた。嫌な顔一つみせないどころか、昔みたいに優しく微笑んで髪を撫でる。


「一緒に入ろう?」

「い、嫌ですよ!絶対無理!!!」

「じゃあ先入ってきていいよ。」

「…あの…寿さん?」


やはり変だ。いつもと違う調子に戸惑っていると、寿さんに優しく抱きしめられる。


「咲優ちゃんを困らせたかった訳じゃないんだ。でも、さっきはムキになってごめん。アイドル辞めてもいいなんて、マネージャーは困るでしょ?だから僕の言う事聞いたんだよね?いつももっと力づくでしないとこんなことしてくれないのに、今日はこうしてホテルまで来てくれた。」

「アイドルは辞めてほしくありません。私の所為で辞めるなら尚更です。夢を諦めてほしくないんです。でも私は…」


―私はマネージャーだから言う事を聞いているんじゃない、寿さんが好きだから。

そう言いたかった。


「優しいんだね。…ねぇ、好きって言ってよ、お願いだから。」

「…嫌いです。アナタなんか大嫌いです。」


抱しめた腕が更にきつく力がこめられるけれど、それには応えられない。応えたら自分の大事なものが壊れてしまう。「嫌いです」と言った自分が泣いているのに気付いた時には寿さんが涙を長い指ですくって、また優しくキスをした。

お風呂の内装もシックで綺麗なつくりで、ものすごく広い。一人で入りながらキョロキョロと辺りを見回して一向に慣れない。
きっと寿さんはこういったエスコートは慣れているのだろう。高級ホテルに女性を連れ込むなど容易いこと…アイドルのワガママを聞き入れるただのマネージャーだ。そう言い聞かせてバスローブを羽織った。部屋に戻ると寿さんがシャンパンを出して自分が入浴中に自由に飲むように伝えるとそのまますれ違って風呂場に向かっていった。
ついていたテレビのチャンネルを変えると寿さんが出演したバラエティ番組が放送していた。早々にお風呂から出てきた寿さんが「あ、この前の撮影のだね。」と言って近づいてきた。一気に緊張するとそれが伝わったのか、寿さんはクスクスと笑いながら私の背中と膝を抱えて抱き起した。所謂お姫様抱っこに恥かしさのあまり騒ぐと、「テレビの僕じゃなくて、こっち見てよ。」と言ってベッドに私を投げた。フカフカなベッドマットと羽毛布団は肌触りがよくて、ギシリとスプリングが鳴ったが変に沈みはせずに投げられた身体をふわりと受け止めた。



*********



「寿さん、ここっておいくらなんですか?」

「あのさぁ…さっき咲優ちゃんが言ってた言葉そのまま返すけど、でも絶対僕より君の方が雰囲気ぶち壊すの上手いよ!」


寿さんは呆れながらも、会員制のシステムについて教えてくれた。15年1クールで年何回利用するかで値段が変わり、分譲マンションが購入できる額と同じようなとんでもない金額を口にしていた寿さんはやっぱり人気アイドルなのだな、と改めて実感した。唖然としていると「庶民の夢だよ!夢!!それに、アイドルじゃない時間も満喫したいでしょ?母ちゃんにその話したらぶん殴られたけどね。」と笑っていた。寿さんの母親はとても明るく気さくな人物で、ロケ弁搬入の時に「家の嶺二、馬鹿だからよろしくお願いしますね。」と豪快に笑って挨拶しに来てくれた。その時から、何度か話をさせてもらっていたが、寿さんを叱りつける図は容易に想像できて微笑ましいものだ。


「そりゃ私だって聞いたらきっと殴ってましたよ。でも、こんな所初めてきました。」

「そ?僕も初めて女の子と一緒にここに来たよ。自分のテリトリーに入れる子って今までいなかったし。」

「絶対ウソ。」

「何それ酷っ!!僕の事なんだと思ってるの。」

「…。本当に言って欲しいですか?」

「あ…いや、絶対傷つく気がするからやめとく…ぐすん。」


この人は、どうしてこんなにも幸せな気持ちにさせてくれるのだろうか。初めて連れてきただなんて絶対嘘だ。女性と密会するには恰好の場所である。
何だと思っていると言えば“そうやって女性を喜ばせるのが得意で、垂らしこむのも上手で、大人で………本当はとても優しい人”。勝手に最低最悪の言葉を思い浮かべて傷付いているので、この事は絶対に言わないでおこう。


「じゃあ、さっきの“初めて女の子と一緒に来た”って言葉だけは信じてあげます。」


嘘でも信じたかったのは私の方だ。
フフッと笑うと、寿さんも一緒に笑ってまた私の頭を撫でた。あぁ、やっぱりこの人の声も、仕草も、雰囲気も、全部好きだ。

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