02
あの一件から互いに忙しく、蘭丸は名前に会えない日が続いていた。
そんな中でもレンや真斗とは現場で会い、名前に優しくしろだの、この前の事を謝罪しろだの小煩いものだからイライラは募るばかりであった。おまけに今現在、特に会いたくもないであろう嶺二がブンブン手を振りながら蘭丸の元へ近づいてきた。「なんだよ。」と素っ気なく答えると、名前がレコーディングルームに籠って作業しているとお節介を焼いていた。嶺二なりにこの前の事を気にしているようで、「名前ちゃん、今なら一人だから行っておいで!」とご丁寧に場所まで伝えてその場を去って行った。嶺二から教えられた情報にのってノコノコ行くのは少々癪ではあったが、名前に会いたいという想いが身体を動かしていた。ノックしても返事は一向になく、そっとドアを開けると、機材を前に突っ伏して寝ている名前を発見した。
人の気配を感じないのか、まったく起きる気配のない彼女に近づき顔を覗き込んでみる。


「くそ、すっげ可愛い…」


普段、険しい表情の方が多いであろう蘭丸が、顔を赤くしてその場に座り込んだ。長い腕を伸ばして名前の髪を触ると錦糸の様なサラリとした感触が指に絡み、ふわりとシャンプーの匂いが鼻をかすめた。蘭丸が愛おしそうにそっと名前の頭を撫でていると、名前のくぐもった声がぷっくりとした綺麗な唇から発せられた。


「んん…先輩。」

「先輩って、誰の事言ってんだよ。俺の名前呼べよ…バーカ。」


「先輩」と呟く名前をまた、愛おしそうに、寂しそうに眺める蘭丸がまた悪態を付いた、その時だった。


「ん…っっひやああああああ!!!びびびびびっくりしたっ!!!」

「ばっかやろ…急にデカい声出すんじゃねーよ!」

「だって、蘭丸先輩が急に居るからじゃないですか!!!」


しゃがんで視線を同じにしていた蘭丸の耳には大音量の声が直接届き、キーンと頭に響くなんとも不快な状況に陥った。耳がいい蘭丸には余程辛かったようで、両耳を抑えて苦悶の表情であった。
一方名前は先程の大人しい寝顔、静かな寝息とは真逆に顔を真っ赤にして動揺を隠せないまま騒ぎ立てた。


「お前がいるって聞いたから…ただ名前の顔が見たかっただけだよ!悪かったな…じゃーまたな。」


バツが悪そうに、蘭丸も名前と視線を合わせられず、そのまま顔を背けた。本当にただ、顔が見たかっただけだったし、この前怖がらせてしまった件を謝りたかっただけで、作業の邪魔はしたくなかった蘭丸はその場を後にしようと立ち上がると、扉へ向かった。振り返り、一歩を踏み出した瞬間、後ろからジャケットの裾を掴まれた反動で静止させられてしまった。振り返ると、名前が蘭丸を見上げてたじろぎながら口を開いた。


「あ、あの…」

「何だよ。」

「蘭丸先輩、今夜…ご飯作りに行ってもいいですか?」

「あぁ、いいけど…つか、鍵渡してあんだから勝手に使えよ。」

「はい、すみません…」

「あと、2人きりの時は敬語やめろっつったろ。」

「ごめんなさい。」


甘やかせたいと思って言葉をかけても結局謝らせてばかりだ、と蘭丸がため息をついた。
名前を怖がらせたのは自身である自覚はあったが、不謹慎にもシュンとしている名前がまた可愛く思えて、ポンポンと頭を撫でた。


「今日、寒いから鍋がいい。その…名前。この前は驚かせて悪かったな。」

「えへへ。」


照れながらも満足そうに笑う名前を見てホッとした蘭丸は、「じゃあな」と言って部屋を出た。防音の重厚感ある扉がガチャリと音を立てて閉まり切った後、蘭丸がまた扉を背にしゃがみ込んで両手で真っ赤になった顔を覆った。


「あぁクソ!!可愛い…ったく何なんだよ!!」



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