欲しいものは、
「今日この番組撮影の後暇?」

「何でですか?ダメだしだったら後日事務所でお願いします。」


寿嶺二…私の好きな人だ。
芸能界でも人生においても先輩にあたる人だ。いつも皆から慕われていて、ムードメーカーの彼は、私に言わせてみれば飄々としていてよくわからない人だった。周りの女の子にはとても優しいのに、私には意地悪を言ったりからかったり。事務所の後輩として、年下として可愛がられているし、指導されているのはわかっている。
トキヤも音也も嶺二さんについて習っていたとき結構楽しそうにしてたのに、昔私に対しては綺麗な顔を不機嫌にさせてボロクソ言ったりしたことだってあった。未熟な部分があるのは承知していたが、理不尽な所にはもちろん黙っていられず口答えしてしまうこともあって、そんな時は龍也先生が大人な対応で私と嶺二さんをやりこめていた。それが悔しくて今もアイドルを続けていられるのかもしれないけど…実際何でこんな人を好きになったのかわからない。
でも、いつもは笑って皆を和ませてピエロ役をかっている彼が、時に真剣に芝居をしたり、一人で悲しそうな顔をしていたり…そう、ただ、気になった。それが恋愛感情だなんて気付くにはかなりの時間を要したものだ。


「質問を質問で返すのはナンセンスだなぁ。っていうかダメだしされるの決定な勢いで番組やられちゃ困るんだけど。」

「すみません。でも、そう言うつもりじゃ…ないです。ただの言葉のあやです!!」

「まぁいいけどさー。嶺ちゃんからのデートのお誘い。この後仕事ないよね?暇?」

「デ…デデ、デートって。何企んでるんですか。まぁ…暇…ですけど、だって今日誕生日ですよ?皆がパーティーしてくれるんじゃ…」


嶺二さんが何故デート相手に私を選んだのか全く理解できない。行きたいけど、行きたくない…矛盾した感情が渦巻いて口籠っていると、嶺二さんはニヤリと笑った。口走った、と気付いた時にはもう時遅し。


「僕の誕生日ってやっぱり知っててくれたんだ!!嬉しいなぁ♪」

「皆喋ってますから耳にも入りますよ。」

「あはは、ツンデレ可愛いなぁ!名前ちゃんが知っててくれてるのがいいんだよ。」


ジリジリと距離を縮めてくる嶺二さんと一定の距離を保とうと後ずさる。楽屋の壁ですら嶺二さんの味方なのだろうか、すぐ後ろに迫った(実際は迫っているのは自分だけど)壁にゴツリと頭をぶつけて鈍い音が響いた。
嶺二さんは噴出して笑って面白がってはいたが、いつの間にか私の頭を撫でていた。嶺二さんの香水がふわりと香った。


「距離、近いです。」

「うん、近付いてるからね。」

「嶺二さんは意地悪です!」

「だって名前ちゃん可愛いんだもーん。」

「か、か、からかわないでください!」


どうして嶺二さんの前だと上手く立ち回れないのだろうか。口籠りっぱなしな私をからかう嶺二さんも意地悪だと思うが、毅然と振る舞えない自分には本当に嫌気がさす。私はこの人に嫌われたくはないのだ。


「からかってないよ…ねぇ、名前ちゃん。僕にプレゼントちょうだい?」

「何ですか?」

「僕の彼女になってよ。」

「…」


彼女?

嶺二さんが私なんかの一体どこを好いてくれたのか。むしろコレ全てドッキリか何か?

頭を撫でた手が髪をすくって毛先を指で弄ぶ。楽屋にはBGMがかかっていないし、モニターやテレビも置かれていない。静かな空間の中で、自分の速くなった鼓動だけが響いて聞こえてしまうのではないかと思う程だ。
嶺二さんがすがる様な、でも私の心を見透かされているんじゃないかと思うくらい強気に微笑み視線を送られる。


「はいって言ってくれるのが誕生日プレゼント。どう?」

「どうって言われても困り…


返事を拱いていた私に催促する嶺二さんに、何とか絞り出した言葉は唇で塞がれていた。
すぐに離れた唇は私の耳元を経由してゆっくりと離れて行った。



「―――――…だ。」



クルリと向きを変えると、嶺二さんの広い背中が見えた。緊張から時放たれて、今の出来事を処理できていない私の脳みそも体も力を失って楽屋の床にへたり込んだ。
すると、軽快なノック音と共に番組スタッフがドアを開けた。


「あーやっぱり名前ちゃんの所にいた。2人ともスタンバイお願いします。」

「あはは☆すみませーん、ウロチョロして。お願いしまーっす!」


スタッフの話をすんなりと受け答え、嶺二さんは楽屋を出ようと歩き出した。ドアの所で立ち止まると、またクルリと向きを変え、私に柔らかく微笑んだ。
嶺二さんは何も言わず、スタジオへ向かっていった。私は一人、嶺二さんが出て行ったあとを呆然と見ていたのだった。



『好きだよ…名前ちゃんが欲しいんだ。』


        HappyBirthday Reiji !


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