「何だかんだでトキヤに甘いよな〜結局来ちゃったし。」


トキヤの部屋の前で大きくため息を吐いた。
結局蘭丸と嶺二と3人で居酒屋に入ったものの、2〜3時間経ったところで蘭丸に「一ノ瀬待ってんだろ。アイツ後からグダグダ面倒臭ぇこと言うからお前そろそろ帰れよ。」と言われてしまった。蘭丸は何だかんだ後輩思いだし、トキヤのねちっこさを知っていて、自分が文句を言われる事を避けたいのだろう。
嶺二もスタジオでトキヤに睨まれていた所為か蘭丸に賛同して、「会計はいいからね。」と言ってニヤニヤ笑っていたから横並びに座っていたのをいいことに一発ひじ打ちをかましてやった。同期の友情よりも男同士の絆の方が強いのだろうか、蘭丸も嶺二も何だかんだで後輩のトキヤの世話を焼いているし、相談にも乗っているようだから2人の言う事を素直に聞いてマンションまでやってきた。いや、多分言われなくても来てしまったかもしれない。
結局トキヤに一番甘いのは自分だ。


「宙、おかえりなさい。ものすごく遅かったですね、ものすごぉく。」


インターフォンを鳴らすとすぐにドアロックが解除されてトキヤが迎い入れてくれた。しかし、見事なアイドルスマイルで眩しい程だが、それとは正反対に低い声色で妬ましそうに「ものすごぉぉぉく、ね…」と連呼していた。


「笑顔眩しい…眩しすぎるのに怖い!!」

「何言ってるんですか。馬鹿ですか?」

「やっぱり帰ります…」


見てくれはキラキラしているはずなのに、内から溢れ出る黒いオーラが滲み出ているのが目に見えるようだった。笑顔のまま愚弄するトキヤにやはり今日泊まったら明日の身がもつ自信をなくして帰ろうとしたが、あっという間に腕を掴まれてどんどん部屋の中に連れ込まれてしまった。


「どうぞ。」

「あ、これってレン君とカミュと嶺二でやってるカクテルシリーズだ!CMすっごい流れてるよね。今日もあのCMすっごい色気あってカッコイイってメイク室で皆と盛り上がったんだよー。」


トキヤのペースでどんどん奥へ通されて、コートを脱がされソファへ座らされる。手際よくおしぼりが出されたかと思うと目の前にお手製だろうカプレーゼとお酒の缶がテーブルに並べられた。出されたお酒はトキヤ達が出演している効果と、カクテルテイストで飲みやすいとの女性からの支持で今とても人気のあるお酒だった。


「私のCMで扱っていたベリーニ。あと、こちらがレンのワインクーラーです。」

「わぁ!ありがとう!」

「ビールも冷やしてありますよ。」


飲みたかったものを出されて嬉しいけれど、爽やかな笑顔のままひたすら私を喜ばそうとするトキヤを見て一瞬で猜疑心が強くなった。 独占欲の塊みたいなこの男が飲み会の後にこんなサービスよくご機嫌を取ろうとしている時点で何か良からぬことを考えているのは明白だ。


「…あの、もしかして私の事酔わそうとしてます?」

「別に、あんなこともそんなことも期待してませんよ?」

「嘘!絶対ウソ!!!あんなことそんなことって何!!」

「一緒に飲みたかったんですけどね…それならば仕方ありませんね。」


恐る恐る聞いてみたが、満面の笑みで返されて正直震えた。言い争いにほぼ負けるので、トキヤをここまで不機嫌にさせることはあまりないが、だからこそたまに現れる片鱗が恐ろしいのだ。ニコニコ笑ったまま黒いオーラを放つトキヤはお酒を片づけはじめた。


「ちょっと待って!!!飲む、飲みたいそれ。ちょっとだけ…ならね。」

「はい♪」


誘惑に負けた自分が悔しい。でも、どこのお店でもほとんど売り切れているし、折角出された料理とお酒を口にできないなんてそんな辛いことはない。トキヤの腕を掴んでお酒を受け取り一口飲むと、さわやかで口当たりのいい甘いお酒が身に染みた。


「美味しい。」


そんな様子を終始笑顔のまま眺めるトキヤの事は見なかったことにしたい。




―口が上手くて、釣り上手な狡賢い彼氏様


     



(毎回引っかかるなんて本当に馬鹿ですねぇ。)
(トキヤァなんかいった〜?)
(いえ、大好きだと再確認しただけです。)
(んーわたしもだーいすき!)
(だから人前で飲酒して欲しくないんですよ、まったく。)


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