「おい宙も行くだろ?」


『まいど!アイドルらすべがす』のゲストで呼ばれた本日。無事収録が終わってすぐに蘭丸に声を掛けられた。


「飲み?」

「そうだよーん!イケメンと飲むお酒は最高だよ!」


蘭丸と私の間に入り混んで肩を抱き寄せ満足そうな嶺二。自分でイケメンだと言うお調子者に苛立ちを感じながら自分の肩に圧し掛かった重い腕を振り払った。


「じゃあ蘭丸と二人かー久しぶりだね、さし飲み。」

「おいいいいい!!!!」

「「ウゼェな…」」

「二人とも酷いっ!」


主に嶺二だが、騒いでいるアイドルの輪にスタッフも笑いながら「嶺ちゃんがんばれー」と声を掛けていた。二人で飲みに行ったのがバレた暁には週刊誌より恐ろしい大魔王一ノ瀬トキヤの魔の手が及ぶだろうことは容易に想像ができて冗談でしかこんなことは言わない。想像したら身震いがする。


「荷物取ってくるね。」

「おう、後で連絡する。」

「また後でねー!」


蘭丸と嶺二とスタジオで一度別れ、控室に向かった。扉を開けると長い足を組みながらコーヒーを片手に台本を読む男が一人…


「トキヤ…どうしたの?」

「別スタジオで収録でしたが、宙の名前があったので。」

「これから嶺二と蘭丸と三人で飲みに行くから今夜は帰り遅いよ。」


台本とコーヒーをテーブルにおいて眼鏡を外しながらこちらに近づくトキヤの所為で何故か緊張が走った。それもこれも、この前の一件があってからだ。


「遅いんですか…じゃあキスしてください。」

「な、何で…」

「何でって、嫌…ですか?」

「嫌じゃないけど…そうじゃなくて。」


最近トキヤが積極的だ。こうしてマメに控室にやってきたり、家にだってほぼ毎日来るようになり、他人がいても距離が近い。この前も別の現場で那月とレンに仲良しだねと茶化されたばかりでどうも仕事がやり辛い。腰に手をまわして抱き寄せると綺麗な顔が視界いっぱいに広がった。


「私は貴女の彼氏ですよ?可愛い後輩で、素敵な彼氏のお願いを聞き入れないと言うのですか?」

「前に可愛いに属しているつもりもないし属す予定もありませんみたいなことムカツク仏頂面で言ってなかったっけ!?それにここ楽屋!!もう、バカじゃないの!」

「貴女よりバカではない自信は大いにあります。」

「全く可愛くない後輩じゃねーかおい。」


近付いたトキヤの顔をグイグイと押しやるが、負けじと腰に回した腕をこれでもかと近づけて無理矢理唇を寄せようとするトキヤ。全然可愛げのない行為に苛立ちながら何とか逃れようとするが力負けしてしまい、すっぽりトキヤの腕の中に納まる形となってしまった。


「最近舞台稽古でちゃんと会えてなかったじゃないですか。宙不足でただの補給ですから、どうかお気になさらず。」

「お気になさります!っていうか私不足って最近フラッと家来るじゃん!一昨日だって廊下で会ってるし。」


トキヤはその図体のデカさとは真逆に、小動物のように私の胸元に顔をすり寄せスハスハと臭いを嗅ぎながら心地よさそうな顔をしていた。この変態め…。


「でも全然触らせてくれないじゃないですか!!!」

「次の日の仕事に差し支える程暴走する誰かさんの所為ですけどね!!」

「…じゃあ、優しくしますから、今夜は私の部屋に来ませんか。」


ソファに座らされると距離を詰められあっという間に組み敷かれそうな体勢になる。普段からこんなにも積極的なトキヤは苦手だ。嫌いじゃないからどう対処していいのかわからないでいるといつの間にかトキヤの手中にはまってセックスになだれ込み、結果次の日苦労するのは自分である。


「そう言っていっつも最終的にそうならないって知ってる。もう、退いてってば。」

「キスしてくれたら退きます。」


また振り出しに戻った会話に突如終着点がやってきた。
ノックもなく思いっきり開けられたドアが音を立てた。勢いよく入ってきたのは嶺二だ。


「宙ちゃ〜〜〜〜ん!!!遅いから迎えに来たよーん!」

「…嶺二うるさい。ノックしてよね!」

「もぉ宙ちゃんってばアイアイみたいな台詞ぅ。って、おーっと…嶺ちゃんってばお邪魔虫さんだったりなんかしちゃって〜。てへぺロ☆」

「寿さん…貴方って人は。」


上に圧し掛かったトキヤは至極不機嫌そうだが、私よりも嶺二の方が気まずそうで入口で挙動不審だ。


「トッキーってばそんな人を殺める勢いでこっち睨まないでよ。空気読めなくてメンゴメンゴー!」

「いや、今回は読めてる。ナイスカットイン!」


トキヤの腹を膝蹴りしながらトキヤから逃れると、トキヤの怒りは嶺二に向かれていた。トキヤのペースに飲まれそうだった空気を見事打破してくれた恩人の嶺二には感謝しなくてはならない。




―我儘で、強引で、寂しがり屋な彼氏様。


   



(いやでも宙ちゃん、トッキ―の目、目ヤバいってば。)
(だから、今大事な話をしているので邪魔ですから消えてください。)
(嶺二!アンタ私の味方でしょ!?後輩の素行の悪さを指導しなさいよ!)
(気軽に入らなきゃよかった!!ぐすん!!)


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