エレベーターの一件で何とかトキヤから逃れたあと、次の仕事を終えて帰宅した。
簡単に夕飯を終えて、湯船に浸かってため息をついた。


「トキヤの奴、今日の仕事大丈夫だったかなぁ。」


風呂場にいるせいでやけに独り言が響いて聞こえる。人の仕事の心配ができるほど自分もちゃんとしているわけではないけれど、もしも自分が言われてたらと思うとため息しかでなかった。
入浴後、乳液パックをしながら腕や足に保湿クリームを塗っていく。テレビには丁度音也とトキヤが番宣で出ていたバラエティ番組が放送されていた。しばらく体のケアをしながらテレビを見て過ごしていると、インターフォンが鳴った。モニターにはトキヤが映っていたが、どうやらお酒を飲んでいるように見えた。
鍵を開けると部屋へ招き入れる。少しおぼつかない足取りではあったが、私を追い越してどんどん部屋の中へ入って行き、ソファに腰を掛けた。どうしたものかとその様子を見ていたが、手を引かれて強制的に隣へ座らされてしまった。そして、トキヤがいくら細いと言えど、男の体重を全部預けられるように抱き付かれ身動きが取れない。


「宙ちゃーん、ごろごろぉ。」

「ちょっと、お酒飲みすぎた?…もうっ何?」

「今日のことね、とーっても嬉しかったんだぁ。」

「わかったって。ただ何も知らない癖に言い過ぎだと思って庇ったっていうか…私がムカついただけ。…ってかHAYATOバージョンやめて。」


急に喋り出したかと思ったら甘えた声で満面の笑みでえへへと笑うそれは昔から知ってるHAYATOだ。トキヤが一番嫌っていたけど大切にしてきた自分とは正反対のキャラクター。HAYATOとトキヤは同一人物だけど、嬉しかったと言われるならばトキヤにそれを言ってもらいたかった。いつもそんなに飲まないお酒を臭いがする程飲んできたと言う子とは今日の事をやはり気にしていたのだろうと思い、一応返事はしているもののHAYATOとのこのやり取りが早く終わらないかな、とどこか考えていた。


「違うにゃ〜。ボクのことぉ、ちゃんと理解してくれてたんだなぁって、こんな女の子と出会えて幸せだにゃぁって思ったの。」

「それ本心?酔っ払って言ってるだけ?」

「本心だよぉ。」

「私はHAYATOキャラ演じてる一ノ瀬トキヤじゃなくて、そのままの一ノ瀬トキヤが好きなの。HAYATOはただの後輩だったって言うだけだし。だから、甘えられてもものすご〜〜〜く困ってる。HAYATOはちゃんと自分の部屋帰りなさい。じゃあね。」


纏わりついたトキヤを何とか振り払い睨みつけた。傷ついたような表情を見せたトキヤに胸がチクリと痛むが、それでも気にしない素振りでトキヤを残して寝室へ向かおうと歩き出した。


「宙っ。ダメ、行かないでください。」

「トキヤのばーか。酔っ払い。」


トキヤが後ろから抱き締める。いつもに戻ったトキヤの腕を振り払うことはしない。肩に埋めた頭に自分の頬を寄せると、トキヤがそこにそっとキスをした。


「すみません…ですが、私はいつも完璧でいたいんです。アイドルとしても男としても、アナタの前ではカッコよくいたいんですよ。」

「トキヤはカッコイイよ。カッコよすぎてムカツク時あるもん。」

「それは一体どういった感情ですか。それに、私より貴女の方が甘えてこないじゃないですか。だから、宙が甘えられるような、もっと頼れる男になりたいんです。」


トキヤがそんな事を感じていたとは知らなかった。だって、トキヤはいつも完璧だ。見た目はもちろん、仕事でもちゃんと周囲を見て自分の取るべき行動、発言をするし、歌も素晴らしい。HAYATOとはまた違った空気の読み方をして現場を時にいい緊張感、時にいい落ち着きを与えていると思う。同業者から見れば隙がなく、至極羨ましいスキルを持っていると思う。それが、ただ一人の女にこんなにも一生懸命に考えているということがとても嬉しかった。


「あ、ありがと…でも、私の方がお姉さんだし、可愛い女の子じゃないし、上手に甘えられないし。でも、トキヤは十分優しくて、頼れる男だよ。だからこんなに好きなんだもん。」


照れ臭いけど、ちゃんと伝えなければと思った。腰に巻かれたトキヤの腕に自分の腕を重ねて手を握ると、トキヤが握り返した。


「あーもうそう言う所…大好きです。」


―見栄っ張りで、時々素直な彼氏様。



   



(で、誰と飲んできたの?)
(寿さんと黒崎さんです。)
(アイツ等…)
(HAYATO案も2人が…)
(今度会ったら絶対ブン殴る。)

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