12-01


冬至まであと半月。
それは一年でも一番昼の短い季節である。
日が暮れ、辺りは闇に沈む、20時ごろ。
柊美冬は今日も今日とて雲雀恭弥に捕まり、風紀委員会の仕事を終えて帰路につく。

帰りがけに並盛スーパーへ立ち寄り、今夜の晩御飯の材料を購入する。

いつの間にか、随分と寒くなったように思う。
秋というにはいろどりもすっかり消え失せ、季節は冬の入り口に立っている。

(もう少ししたら、息が白くなったりするのかしら)

冬の外出など、いつからなくなっただろう。
CEDEFにはクリスマス休暇の制度があり、この時期になると多くの職員が順番に長い休みを取得する。その分しわ寄せは残された職員に回ってくるため、この時期に美冬が外に出ることは全くと言っていい程にない。あってもせいぜいオレガノと共に銀行回り程度である。

外の空気を吸えるのは、CEDEFの中庭だけ。
バジルと二人でベンチに座りながら熱々の紅茶を飲んで「最近は仕事量が多すぎる」と愚痴をこぼすのが常であった。


そんな彼女の並盛ライフもいよいよ9カ月目に突入した。
柊美冬として、沢田綱吉の生活を監視するのも随分と板についてきたと我ながら思う。なんなら、早朝の笹川とのトレーニングも、夕方の図書委員会と風紀委員会の両立だって、なんだかんだとこなしている。


こんな風に楽しい日々が待ち構えているだなんて、ここに来る前は思いもしなかった。



今夜は遅いし、明日も遅くなりそうだ。
簡単に作れるカレーにしようと、じゃがいもと玉ねぎ、にんじんを買い込んだ彼女は、えっちらおっちら自宅マンションへ足を運んだ。




彼女の自宅は並盛でも一番背の高いマンションの最上階にある。CEDEFが彼女のためにと借り受けたもので、その気になれば並盛中を窓から監視できる程度には、中学校に近い場所にあった。家光が「ここなら美冬一人でも安心だ!」とオートロックをはじめとした抜群のセキュリティつきのこの部屋を選んだのである。

いわゆる”お金持ち”も多く住むこのマンションは、セキュリティもさることながらプライバシーも守られていた。住人と出会うこともほとんどないため、中学生が一人で生活していても疑問には思われることなく、平和に暮らしている。


駐車場に停められている見慣れぬ黒塗りの高級車を横切り、エレベーターで最上階へ上った柊美冬は、自室の扉に鍵をさし込んだ。がちゃり、と鍵を開け、玄関の電気を点けて荷物を下ろす。いつものように、彼女は靴箱の上に置かれていた写真立てに「ただいま」と声をかけた、その時だった。






「おま……っ!!こんな真っ暗になるまでどこに行ってたんだ!!!」


それは、馴染みのある声だった。
しかしなぜ、今この部屋から聞こえるのか?ここは自室である。幻聴か。
靴を脱ぐ美冬の身体がぴしりと固まった。




「いつまで経っても帰ってこないから心配しただろ!?て言うか何だこの荷物重いな!!お前がこの荷物持ってきたのか!?こんな重い荷物を!?」
「……」


荷物はやかましい声の主によって部屋の奥に運ばれていく。

この厚かましい程の心配ぶり、そして度が過ぎた寵愛。
間違いない。………恐る恐る、彼女は顔を上げた。
そこには、いつも太陽のように明るく煌く、どこかのマフィアのボスがいた。
ただ、その太陽は翳って、怒りのオーラに沸いているが。


「レディがこんな荷物持つもんじゃねえよ。こういう時は車を使え、車を。免許持ってんだろ!?」
「……いや持ってますけど、私一応、ただの中学生という設定なんでそれはちょっと」
「邪魔してるぜ、お嬢。…って、なんだ荷物があったなら連絡しろよ?」


そうか、先程駐車場で見かけた見慣れぬ黒塗りの高級車は彼らのものか。
合点が言った彼女は「目立つから遠慮します」とばっさり切り捨てて、目の前の男二人に向き直る。
一人は金髪の色男、そしてもう一人は黒髪に黒スーツの渋面眼鏡。
彼女にとっては旧知の人間だ。


「こういう時こそ頼れよ!俺はお前の兄貴分なんだぜ?」
「どこかのマフィアのボスと兄妹の契りを交わした記憶はありません」
「冷たい!冷たいなぁ〜〜美冬は〜〜〜!さすが俺の妹分!!!」


くぅ〜!と言いながら金髪男は悔し気かつ嬉しそうな様子で、額に手を当て首を振った。何故冷たくされて喜ぶのか。美冬は、昔からそうだったが、やはり今日もドン引きした。

そう言えば、数日前にリボーンは言っていた。綱吉の兄弟子の彼が、来日したということを。だが彼は綱吉やその友人たちの顔を見てちょっと騒いでいっただけ、と聞いている。用があったのは沢田綱吉だった筈なのに、なぜここに。



「そりゃあ俺が美冬のことを心配してるからに決まってるだろー?」



彼女は決して疑問を口には出さなかった。だが、金髪男は付き合いが長い。美冬の思考を読み切った彼は、当然と言わんばかりに回答を発した。ウインク付きで。


「……それは、ご心配をおかけいたしました」
「そーじゃねーだろ、そこは」
「……?」


首を傾げつづける美冬に近寄った彼は、その美しい人差し指を彼女の額にすらりと伸ばし、ちょん、とつついた。


「ありがとうございました、だろ?」
「……っ」


にこり。
まるで華やかなバラかガーベラがバックに咲いたかのような微笑み。
それはあまりにも出来すぎたイケメンぶりで、過去に数多くの女性のハートを射貫いたキメ顔である。だが、そのイケメンを贅沢にも見慣れ過ぎてしまった美冬は、最早苛立ちを覚え、ふい、と顔を背けた。舌打ち付きで。


「美冬が舌打ち!?そんなのどこで覚えてきたんだ!お前そんな子じゃなかっただろ!」
「あーらら、ウザいこと言うから嫌われてやんの」
「う、うっせー!!」


黒髪の男の揶揄に、玄関先で涙目のまま絶叫した金髪男。そんなやり取りをしていた二人に、はたと美冬は問うた。


「っていうか何でうちにいるんですか」


そう。
美冬は玄関にいた。
対して男二人はリビングからやってきた。


二人はニヤリと笑い、見つめあう。そして、金髪男はそのモッズコートの懐から鍵を取り出した。それは、彼女が持つ鍵と、全く同じ、この家のものであえる。

それを持っているのは、彼女と、彼女の上司だけのはず。だが、それを彼が持っているということは。






ふらり。
思わず眩暈を覚えた美冬は、玄関で倒れ込んでしまった。


「おい、大丈夫か美冬!」


慌てて彼女を抱きとめた金髪男。

彼こそ、ボンゴレファミリーと縁が深く、CEDEFのお得意様であるキャバッローネファミリーのボス・ディーノその人であった。




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