09-05.アイツとお前の体育祭


わあぁぁという歓声の中で、一際耳障りな大絶叫が響いていた。

「極限んんんん!!!必勝おおおおお!!!」

それは勿論、笹川了平の鼓舞である。


午前中の競技は徒競走や玉入れなどの通常競技が行われるため、怪我人も出ず穏便に過ぎていた。救護テントの設営を終えた柊は、その場を保健委員たちに任せてふらりと競技の様子を覗きに出向く。
今はちょうど男子のリレーが行われていて、A組代表で走っているのは山本武だった。
B組の陸上部エースとやらと互角の戦いをしており、笹川の応援が白熱するのも頷けた。


(あ、そうだ)


例え体育祭中といえど隙あらば任務を全うするべく、柊はポケットから小型カメラを取り出した。それは手のひらに収まるサイズの小さなもので、大声を上げる笹川了平の姿や、走る山本武、一生懸命応援を続ける沢田綱吉の姿を次々と写真に収めていく。
さらに、観客席には、上司の妻こと沢田奈々や、獄寺隼人の姉・ビアンキ、そして三浦ハルやランボの姿も確認できた。

(親方様、喜ぶでしょうか)

愛妻家と名高い沢田家光は、CEDEF内でも「奈々がな〜」「うちの奥さんはさ〜」と妻の話をよくしている。柊はおまけとばかりに観客席の様子も細かに撮影しておいた(特に奈々の写真は、出来るだけ多めに)。
……そんなことをしていたら、A組の応援席からはわぁっ!と歓声が上がった。

「…あ、勝ってる」

気が付けばリレーは山本武が1位でゴールインを決めていた。山本に駆け寄るA組の面子、そして喜びを全身で爆発させる笹川了平の姿に、柊は思わず相好を崩し「よかったですね」と呟いた。





だが、午前中の競技終盤に事件は起こった。
何の謀略だか知らないが、A組の総大将がB組とC組の総大将を襲ったというのである。

(はぁ!?そんなわけないでしょう…!!)

柊は内心舌打ちをしながら運ばれてきた二人の総大将の治療を行った。
何せ彼女は知っている。
心優しい沢田綱吉がそんな卑怯なことをするはずがないのである。やるとしたら、どっちかって言うとその周囲の人間たち。柊の頭には黒づくめの赤ん坊やら、銀髪のクールなイケメン(仮)やら、その姉の姿が浮かび上がる。



そうこうしているうちに、昼休みに突入し、いよいよ救護テントは忙しなくなってきた。


「柊さん、食中毒の男子生徒が多数運ばれてきました!!」
「どこのポイズンクッキング!?胃薬を用意してください!」

「柊さん、殴られて気絶したらしい生徒が担架で運ばれてきます!!」
「この忙しい時にどこのヒットマンの仕業でしょうねえ…!?まずは氷を用意してください。」


どれもこれも、見知った手口ばかり。
意図的に集団食中毒を起こせるのも、気絶させるほど強烈な一打を繰り出せるのも、彼女が知り得る並盛の人間の中では、数名ほどしかいない。頭の中に明確な犯人の顔を浮かべながら、柊は保健委員たちに的確な指示を出していった。




そんな最中、救護テントの近くを通りがかったのは、雲雀恭弥である。
ばたばたと保健委員たちが入り乱れる惨状を見て、一言。

「やっぱり君を保健委員長代理にして正解だった」
「いや、怪我人増やしてる人が何言ってんですか」

怪我人の中にはトンファーの殴打痕があった生徒もいたのを柊は見逃さなかった。
雲雀はしれっと「知らない」と返すが、柊はこれ以上問い詰めることもなく「そうですか」とその場を颯爽と後にする。
雲雀を問い詰めるよりも先に、目の前の怪我人が優先である。
一方、さらりと交わされた雲雀は何だつまらない、という表情をありありと浮かべ、どこかにふらりと消えていった。








そんな混迷極める救護テントの様子を、少し離れたところで見ている小さなヒットマンがいた。その顔はにやにやと歪められており、とても楽しそうな雰囲気を醸し出す。


「美冬もだが、雲雀はなかなかいい仕事をしやがるな」


柊の人員捌きと処置の的確さは、さすがにCEDEFで鍛えられただけのことはあった。常日頃怪我を負ってくる幼馴染の手当てをしているだけあって、豊富な知識と経験に裏付けされた手際の良さは、他より群を抜いていた。

だが、面白いのは風紀委員長の雲雀恭弥だ。

事前に体育祭の運営に支障をきたしそうな気配を察知した彼は、邪魔な体育委員長と保健委員長をさっさと排除して、才に秀でている柊美冬を抜擢した。
並の中学生ではこの忙しさと、処置対応が出来るはずもない。
雲雀はいち早く危機を察知し、回避するべく対応を行ったのだ。


(…推察の域は出ないが、多分そうだろう)


雲雀恭弥という男は、戦いの快楽を愛する一方で、どうやら人を視る目も持ち合わせているらしい。


「いいコンビだな」


リボーンはそう呟きながら、手元に持っていた小型カメラを救護テントに向けた。

あくせく走り回る柊美冬は、自分が撮影されていることなど全く知る由もなかった。



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