08-01


とある秋晴れの日。

柊美冬は昼休みの図書当番だった。
チャイムが鳴ると同時に弁当箱をもった彼女は、一目散に図書室に向かう。

彼女は図書委員長の特権で、図書室の鍵を常に持っていた。
朝誰よりも早く登校して綱吉の登校を見ることが出来るのも、委員長特権の恩恵のおかげである。
そんなわけで図書室に到着した柊は、鍵穴に鍵をさしこんだ。



「…あれ?」



鍵が、開いている。





今朝、いつも通り綱吉の監視を終えた彼女は、図書室を出る際確かに施錠を行った。

自分の記憶が不確かなのか。

はたまた、施錠したつもりになっていて、鍵が閉まっていなかったのか。

柊は首を傾げながら扉を開けて開館中の札を入り口に下げる。
中に入ってぱちぱちと室内の電気を点け、換気のために窓をすこしだけ開けると、ふわりと風が室内に入り込んできた。レースのカーテンがそよそよと揺れるその奥で、赤とんぼがふわりと飛んでいく。


「……いつの間にそんな季節になったんだろ」


もう秋なのか、時が過ぎるのは早いな、などと過行く季節に思いを馳せながら、彼女はカウンターに足を踏み入れた。

その時だった。




「騒ぐな。静かにしろ。」

「え」

「俺がここにいることは誰にも言うな」

「いや、そんな体制ですごまれてましても」



まるで犯人かのような物言い。顰められた声。そして舌打ち。
柊は己の目を疑った。

声の主は人一人殺ってきました、みたいな顔をして、カウンターの隅にそれはそれは小さく縮こまっていた。威勢と体勢が反比例している。


(えええ…)


戦慄したようすでカウンターからちらりと顔半分をのぞかせては、図書室の外の様子を伺っているのを見るに、彼が何者かから隠れているのは一目瞭然だ。

が、そんな状態でありながらも、彼は柊に向けてここから出て行けとガンを飛ばしてくる。
慎重なのか大胆なのか、一体その度胸はどこからやって来るのだろう。だがこちとら図書委員長、この部屋の主である。
柊美冬は目の前の彼――獄寺隼人を見て、溜息をついた。


「えーと、とりあえず業務の邪魔ですので出てってください」
「何だとテメェ」
「いやいや、それはこっちの科白ですよ。貴方ですね?ここの鍵勝手に開けたの。」


柊の言葉に、獄寺隼人は無言を貫いた。
無言即ちそれは肯定である。

すると、俄に図書室の外が騒がしくなり始めた。
昼食の終わった生徒たちが一斉に動き出したのだろう、間もなくこの図書室にも本の貸し借りをしに生徒がやってくる。


「これからバタバタしますよ。お引き取り願います」
「お前が黙ってれば問題ねーだろうが」


いやいやこちらがやりづらいんですって。
そう、柊の喉から声が出かかった時だった。



ばぁん!とけたたましく図書室の扉が開かれた。


「!?」


あまりの物音に、柊の気は獄寺から逸れ、入り口に向く。(そして獄寺は一層小さく身を縮ませた。)

図書室の入り口には大量の女子生徒の姿がいた。
彼女たちは一様に殺気のようなものをまとい、血眼、という表現がぴったりの様子で図書室にぞろぞろと入り込んでくる。


「いた?」
「いない!!」
「どこ行ったの!?」


何人もの女子生徒が、書架コーナーの隅から隅をくまなく探し回っている。
それは間違いなく、本を探す素振りではなかった。
昼休みが始まったばかりで、誰も読書に来ていないとはいえ、その様子はあまりにも騒々しい。見かねた柊は一旦カウンターの外に足を踏み出し、女子生徒たちに声をかけた。



「何かお探しですか?ここは図書室です。お静かに願います」
「あ…す、すみません」


柊の左腕についている「図書」の腕章を見た途端、彼女たちの勢いが削がれてしまう。
しょんぼりした彼女たちは揃いも揃って、彼女たちは可愛らしいピンクや赤の包みを手にしていた。

(……ん?)

そういえば、今日は9月9日。
カウンターの中で息を潜めているであろう彼のことを思い出し、はっとする。


すると、女子生徒たちのうちの一人が、柊に話しかけてきた。



「あの、獄寺隼人君見ませんでしたか!?」
「獄寺…君…」


ビンゴである。
彼女たちの探し人は獄寺隼人、そのひとだ。
彼女がなにも告げずにいると、女子生徒たちは口々に彼の特徴を示しはじめた。



「ご存じないですか?銀髪のイケメン!」
「とってもクールなかんじで!」
「ワルそうなところが、いいんです!」


とってもクールかどうかはさておき、銀髪でワルそうなイケメンならすぐそこにいますよ。

……という言葉はひとまず飲み込んで、柊は「それなら、さっき窓から似たような人見ましたよ。サッカー部の部室の方に走っていきましたが…」と窓の外を指さした。

すると、それを聞いた女子生徒たちは「みんな!グラウンドに行ったらしいよ!行こう!!」と連れ立って図書室を飛び出していった。







それはまるで嵐が去ったよう。

図書室に再び訪れた静寂にほっと胸を撫で下ろし、柊美冬は言った。


「あれじゃあ、逃げ遂せるのも一苦労ですね。”獄寺隼人君”。」


カウンターの奥からは「…果てろ」と応答があった。


本日9月9日は獄寺隼人の誕生日だ。





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