「ああぁぁぁぁ!!」
「―…っ!!!?」


突然の大声。
驚いて顔を上げれば、そこにはぷぅっと頬を膨らませる***の姿があった。

「リンク、さっきから私の話し聴いてないでしょう」
「え?…も、もしかして……」
「えぇ、気持ち良さそ〜うに寝てました」
「ごめん…」
「分かれば良し!でもまぁ…仕方ないよね。最近ずっと戦いっぱなしだったんだもんね」

優しく微笑んだ#naame1#が愛しくて、どんなに疲れていても彼女さえいればまた頑張る事が出来た。

「あ、でもそう思ってくれてたなら、そのまま寝かしといてくれても良かったんじゃないかな?」

からかいたくなって悪戯に言を言えば、予想通りしどろもどろになった#naame1#が面白くて笑うと「だって!」と反論をしてくる・
だから…

「――?!!…ば、馬鹿!」
「ふふ〜ん」

#naame1#の口を塞いじゃえばいい。顔を真っ赤にしながら怒る彼女もまた愛しい。
しかし、俺にはやらなきゃいけない事があるから名残惜しくもまた直ぐに旅に出なければいけない。


「じゃ、俺そろそろ行くよ。」
「もう行くの?…まっ、仕方ないもんね。頑張って!!…あ!そうだ、明日ってまた来れる?」

ふっと思い出したかのように聞いてきた#naame1#。

「どうだろ…、状況によると思うけど夕方頃になら来れるかもしれない。でもなんで?」
「秘密!じゃあ待ってるからね!」
「ああ、必ず行くよ。」


外してあった剣と盾を身に付け、愛馬であるエポナに股がり行ってきますと言えば
行ってらっしゃいと笑顔で見送ってくれた


こんな幸せな一時が、まさかあんな悲劇によって崩れ去ろうとは思ってもいなかった。






トン トントン

「ふう…、こんな感じかな?」

やり残しがないか確認し、金槌を手に屋根から飛び降りる。すると、マロンと牛乳瓶を持ったタロンさんとインゴーさんがやって来た。

「あっ、妖精くん終わった?ありがとう。今日はほんと助かったわ、最近はああいう連中が多いみたいね…それとはいこれ、お礼よ!」
「今回は本当に助かっただーよ。」
「本当にいつもすまねぇ。あんたが居なかったらどうなってたか…」
「いいえ、無事で何よりです。」

俺が何故屋根の修理をする事になって何があったのか…
それは約1・2時間前に遡る。


――――


用を済ませた頃にはすでに陽が傾きかけていた。
急いで***の家へ向けてエポナを走らせ、ロンロン牧場の傍に差し掛かった頃
、何やら牧場の方からいつもとは様子の違う荒々しい騒ぎ声が聞こえてきた。気になって足を運んでみれば人相の悪い男達が、マロンやタロンさん達を取り囲みナイフをちらつかせて脅していた。

「さぁ、有り金全部よこしな!さもないと、あんた達だけじゃない…この牧場がどうなっても知らねぇぜ!!」
「あなた達のようなのにあげるものなんて何も無いわ!」
「―っ、威勢のいい姉ちゃんだ。だったらどうなるか教えてやるよ!」

そういって手に持ったナイフを、男はマロン目掛けて降り下ろした、が…当たる直前、男の手にあったナイフは突然飛んできた矢に弾かれ未遂に終わった。

「何やってんの、あんた達?」
「妖精くん!」
「くそっ、何だ貴様!?邪魔しやがって、殺っちまえ!!」
「はぁ〜……どうなっても知らないよ?」

流石に人間相手に斬る訳にいかず、鞘を付けたまま溝内を狙う。それに、奴等を伸すのにそう時間はかからなかった。


―――――


その後、奴等が荒らしに荒らし回って開けた穴を修理するのを手伝う事になったわけだ。

「じゃ、俺そろそろ行くよ。」
「うん、今日は本当にありがとうね。それとごめんね。***の所に行く途中だったんでしょ?」
「ま、まぁ…」

マロンは本当にこういうことには鋭い。

「ふふ、取り敢えず***に『たまには遊びに来いっ!』て伝えといて。後、気を付けなさいよって…村外れに住んでるから余計によ。」
「分かった、伝えておくよ。じゃあ、また今度来ます。」
「えぇ、さぁ早く行った行った!大切な彼女待たせるんじゃないわよ〜!!」
「っ!ほ、ほっとけ!!」


陽はすっかり沈み、辺りは真っ暗。自然と走るペースを上げて***元へと急ぐ。
それにしても…「最近はああいう連中が多いみたいね」
世界が腐敗すると人の心までをも腐敗させてしまうのだろうか。そう思うと何だか哀しくなる。

それと、何故だか牧場を出た辺りから胸騒ぎがして落ち着かない。
ふと未だに俺を待っているであろう***の事が心配になって、更にペースを上げる。

なんだろう…嫌な予感がする…



「なっ…?!」

***の家に着くと、まるで目を疑うような光景が広がっていた。
急いで炎の燃え盛る家に飛び込み、部屋の中央に倒れていた***を抱き抱え外に運び出す。

「***!***!」

無我夢中で呼びかけると、彼女はうっすらと瞼を上げて微笑んだ―いつもと変わらぬ笑顔で。
そして、力の入らない手を一生懸命に伸ばし俺の頬に触れながら小さく言う。

「…た……たんじょ…うび…おめ………で…とう…」
「え…?」
「今日は……リン、クの…ゴホッ たん…じょうびだ、かゴホッゴホッ」

そうか…ここずっと戦いばかりで忘れていたけど、今日は俺の誕生日。***はそれを憶えてて今日俺を…でも、今はそんなことどうでもいい!!

「…リ……ンク…」
「分かった、分かったから…お願いだからもう喋るな…!」

段々と弱々しくなっていく***を俺は、只抱きしめる事しか出来なくて…

「だ……い…すき………」

頬に置かれていた彼女の手がフッ、と力なく崩れ落ちた。

「***…?***?!…嘘だろ、嘘に決まってるよな?!!そうだ、今日マロンがたまには遊びに来いって言ってたぞ!…っ…なぁ…嘘だって言ってくれよ!なぁ!!」

しかし、彼女は二度といつもの様に動く事も喋る事もなく…俺の腕の中で只力なく横たわるだけ。

「くそっ…うわあぁぁあぁあああ!!」

瞬間、何かが崩れ落ちる音がした。



一夜明け、燃え盛っていた炎も今ではすっかり消えていた。
その傍らには、すっかり冷たくなった***を未だ抱き抱える勇者の姿。しかし、彼はまるで脱け殻の様に動かない。

ザッ…ザザッ
足音に顔を上げれば、昨日ロンロン牧場で暴れていた連中。

「ん?…!貴様は昨日の!」

奴等は俺を見て驚いているようだったが、今の俺にはどうでもよかった。しかし、ふと男の一人が首からぶら下げている物に目がいった。

「それは…」
「?…あぁ、これか?昨日そこの家の姉ちゃんから頂戴したんだよ。…今あんたが大事に抱えてる姉ちゃんからな」

耳につく下賎な笑い声。

「まぁ…そんな事より昨日はよくもやってくれたなぁ?今日はそう簡単にはやられないぜ」

何処からこんなにと思うほど、昨日よりも人数が増え、手にはナイフだけではなく剣や槍などをを持って俺を取り囲む。

「恐がるな、どうせ斬っては来ない。…殺れ!」

一人が剣を手に斬りかかってくる。

ザシュッ

紅い雫が飛び散り、ドサッと地に崩れ落ちた男。
あんな攻撃が通用するとでも思っていたのだろうか。

「――っな!?」

***を静かに寝かせ、剣を片手に立ち上がると未だに驚きを隠せないでいる男の方を向く。

「……い、お前らだけは許さない…!!」

沸々と沸き上がる怒りと憎しみは止めどなく無限に溢れかえる。

「っ怯むな!所詮人数には敵わない!一気に行け!!」

が、為す術もなく次々に倒れていく男達。
そして、一人、また一人と斬り付ける度に紅く染まる剣。

「は、はは…あはははははは!!」

怒りと憎しみに支配された俺には、

「くそっ……―!?」

最早何も感じない。








さぁ、始めようか…





散り逝く華と 紅い円舞曲を

(地に舞う紅い花びら)
(こんなにも、綺麗な色だったなんて)



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