骨が軋む音に霞む視界。口の中ではザラりと鉄の味が滲み、耳からは聴きたくもない罵声の声ばかりが流れていた。

あぁ、うるさいうるさいうるさいうるさい!

いくら耳を塞いだところで完全にそれを遮断することなんて出来はしなくて、余計に腹が立つ。


何故、女神様はこんな者を生かしたのだろう…
何故、平気で私を傷つけ苦しめるのだろう…
何故なぜナぜなぜナゼ…!!


「ワタシが教えてあげよう。」
「…!?」


赤いマントを纏った白い男。その周りには、先程まで私を苦しめていた人間達が無様な姿で伏せていた。

―ざまぁみろ。

思わず笑みが零れた。


「いい笑顔だ。やはり正解だったようだ。」


そういえば、この男はさっきから何を言っているんだろうか?
それに、あの言葉の意味は…


「おっと、ワタシとしたことが自己紹介を忘れていたね。ワタシの名は、ギラヒム。気さくにギラヒム様と呼んでくれて構わないよ?」
「ギラ、ヒム…?」
「ああ、そういえば君を苦しめる理由を教えてあげると言ったままだったね。」


そうだ…
一体何故と身を乗り出すと、ギラヒムと名乗った男は目を細め、ニヤリと薄ら笑いを浮かべた。


「それはね…、君はこの薄汚い人間共とは違うからさ。」
「…違う?」
「そう、君はこんな所に居るべき存在ではないのだよ。」
「だったら…、だったら私はどこに行けばいいのよ!どこにいたって同じだったのに…!」


そうよ…。
どこにいたって、誰もが私に襲いかかって来る。居場所なんてないのは知っていた。それを、この男は今更どうしろというのだ。


「まぁ、そう睨まないでおくれよ。私はそんな君を救いにきたのだからね。」
「救う?どこにいたって邪魔者扱いされ、何もしてないのに無意味に傷付けられて、今度は救いに来た?ふざけないで!!」


空に響く叫び。
しかし、そんなことさえも面白いというようにギラヒムは笑う。


「ふざけてなんてないさ。確かに、君はどこにいたってこの人間共に傷付けられ迫害を受けて来た。それは今後も変わらないだろう…」


それを分かっていながら、一体何を言いたいというのだろうか。訳が分からない…そんな時、ふわりとした温もりに動けなくなった。


「大丈夫、君は君が思っているよりも素晴らしい存在なのだよ。それをワタシが証明してあげよう…」


離れた温もり。変わりに差し出された手。


「無理強いはしない。ワタシと共に来るのなら、誰も君を傷付けさせない。君を守ると約束しよう。」


どうする?と笑った男は、救いに来た天使と言うよりも悪魔と表現する方が相応しい。
けれど、答えはもう決まっていた。


「ふふん…。宜しく、***」
「えぇ、ギラヒム様」


この苦しみから逃れられるなら、天使だろうが悪魔だろうが何でもいい。例え、その先に何があろうとも…―




(初めてふれた温もりが、優しさがこの身を縛り付ける呪詛となる。)



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