―ガッ ギィンッ!!
とある一室から響く音。何事かと覗けば、一心不乱に剣を振り回すギラヒム様の姿があった。恐らく、いや、確実に機嫌が悪い。それも、激烈に。
困った御方だと溜め息を吐いたと同時に、キィンッと響く金属音。足元に転がるナイフ。
「おや?確かに***君を狙ったはずなんだけどねぇ…」
目を向ければ、それは見たこともないような笑顔が。しかし、目が笑っていない。
「八つ当たりするのも程々にお願いしますよ。」
「八つ当たり?ワタシは体が鈍らないように、鍛練しているだけなんだけどね。」
「心外だよ」なんて溜め息を吐かれたが、心外なのは寧ろ私の方だと思う。大体にして、先程の攻撃は本気で狙っていた気がする。
「では、気晴らしにお付き合い致しましょう。」
「ふふん…、それは楽しみだ。」
うっすらと笑みを浮かべ、舌舐めずりするギラヒム様は、まるで蛇のように艶やか。
しかし、次の瞬間には互いの剣が激しくぶつかり合った。
「そんな攻撃、ワタシに効くとでも?」
「まさか。そんな馬鹿じゃないです、よ!」
どんな攻撃もはねのけられて届かない。
でも、私だってただ適当に攻撃しているだけじゃない。
―トン
「…っむ!」
「私だからって油断しましたね。」
壁際に追い込んだところで、切っ先を横に薙払った。が、それはギラヒム様を捉える事なく宙を斬る。代わりに残った菱形を見て、すぐさま後ろへ剣を振った。しかし、
「私も、瞬間移動の練習をした方が良さそうですね。」
「何故だい?」
「例えば、今この状況を打破する事も可能だからです。」
「なるほど…」
ひんやりと首元に添えられた黒剣。
やはり、私なんかの力ではギラヒム様に勝つなんてことは到底無理な話。
「鍛錬相手として力不足で申し訳ありませんでした。しかし、ギラヒム様と剣を交えた事、とても嬉しく思います。」
「そう、それは良かった。」
「今までありがとう、御座いました。」
「さよなら…***君」
―ビシッ
「で、今回は何の役だい?」
ヒリヒリと痛むオデコをさすりながら、見上げればギラヒム様の呆れ顔。
「どんな事でも、主の為なら命を捧げられる部下の役です。」
「全く…。お前のお遊びに付き合ってると、みんなどうでもよくなってくるよ…」
なんて言いつつも、結局付き合ってくれる優しさに頬が緩む。例え呆れられても、私はそれで満足。
「何笑ってるんだい?」
「いっ、いえ!」
「はぁー…まぁいい。ほら、さっさと巫女を追うよ!」
「はい、ギラヒム様!!」
さぁ、次はどんな遊びをしようかな?
けどね、これだけは遊びなんかじゃない。
(ギラヒム様の為なら この命までも喜んで捧げましょう。)
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