「寒いっ…」


窓から覗く景色の殆どを白が埋め尽くしている。これが小さい頃なら、きっと大はしゃぎして外に飛び出していただろうけど、生憎そんな歳でもない。

早く部屋を暖めようと、暖炉に蒔きをくべていた最中、コツコツと玄関が鳴った。


「はーい、どちら様でしょ―…気のせいだったみたい。」

「それは随分と酷い物言いじゃないかね?」


すぐに扉を閉めた筈が、何故か家の中にいるこの男。


「不法侵入で訴えるわよ。」

「せっかく、このギラヒム様が貴重な時間を割いてまで、わざわざ***くんに逢いに来たというのに…」

「一度だって頼んでないわ。」


大体にして、なんでこんな寒い中、全身穴あきタイツなんか見なければならないのよ…
いくらマントを羽織ってるといえ、見てるこっちが寒くなるわ。


「…で、そのギラヒム様は何の用なの?」

「先程も言った筈だけどね?ワタシは***くんに逢いに来たとね。」

「それは最悪だわ。」

「フフフ…照れなくてもワタシには分かっているのだよ。」

「黙れ変態。」


もう嫌だ。毎度毎度、この人と話すのは疲れる。大体にして、一々変なん踊りしたり舌なめずりしたりって変態通り越してウザいのよ。

私はソファーでゆっくりくつろぎたいの…!


「ギラヒム…今日はゆっくりしたいのよ。これでもあげるから帰ってくれないかしら。」

「おや…、これは植木鉢かい?」

「そう、その花はスノードロップ。雪の雫という意味よ。」

「ほぅ…、このワタシには到底適わないが、なかなか良い感じの花だね。」


どうやらお気に召して頂けたようで。それにしても、彼と植木鉢なんて組合せには少し笑えるわね。


「知ってる?スノードロップの花言葉。」

「なんだい…?」

「希望。」

「ふぅん…至ってシンプルだね…」



そう、至ってシンプルな花言葉。でもね?


「プレゼントすると“あなたの死に際が見たい”になるのよ。」

「………」


あまり良い言葉ではないから、プレゼントには向かない花。
分かったのなら早く帰ってくれないかしら…って、あら?


「***くん…、いや、***。」

「きゅ、急にかしこまってどうしたのよ?」


もしかして、やりすぎてしまったかしら…なんて内心焦っていると、突然両手を掴まれ、真剣な表情で見つめられた。







「結婚しよう!!」

「……は? って、なんでそうなるのよ!?」

「隠さなくともワタシには、ちゃんと理解出来ているよ!」

「だから何が!!?」

「全く…、そうやって一々ワタシに言わせるのかい?まぁ、それが君の望みと言うならば言ってあげようじゃないか!」


指をパチンと鳴らすと、私の目の前に居たはずの彼は、いつの間にか私の後ろに移動しており、ゆったりと謎の踊りを始めた。


「“あなたの死に際が見たい”…それはつまり!」

「つ、つまり…?」

「ワタシが死ぬまでずっと傍にいたい!…そういう事なのだろう?」

「え?…そう、なの?」


分からない。ただ分かった事は、彼の思考回路は良いように出来ている。それぐらいだろうか…


「あぁ…、そうなると一分一秒でも惜しい!こうなれば、ずっと***の傍にいてあげようじゃないか…!!」

「え、あの…」

「何も言わなくていい。さぁ…、今日からワタシと二人、仲良くやっていこう。」


駄目だ。何も聞いてない…
大体にして、帰らせるはずが居座らせてしまっているじゃないの。

困ったわ…なんて思いながらも、結局二人分の朝食を考えてしまう私は甘々なのかもしれない。
だからといっていきなり結婚なんてしないわよ?

でも、彼のこと嫌いじゃないのよね…。
ウザいし変態だけど、いざという時は強くてかっこいい。

それに…


「考え事かい?」

「―!? っな、なんでもないわよ!!」

「ふん…相変わらず可笑しな子だね。」

「あんたにだけは言われたくないわ…」





それにね?

(突然のプロポーズにドキッとしたなんて、口が滑っても言えない)











***
ちょっぴり素直じゃない夢主と、どんな言葉もポジティブに変換出来てしまうギラヒム様のお話し。



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