久しぶりの晴れ模様。
いつもの、お気に入りの場所である屋根に登り、少し湿ってはいるが特に気にする事なく、落ちないようにだけ気を付けて腰掛けた。
ここなら村全体がよく見えるし、静かで落ち着く秘密の場所。
風が心地よく、後ろで縛り上げた髪を揺らしながら吹き抜けていく。
そんな場所で歌を口ずさみながら、のんびり過ごすのが私の日課だった。
そして日が傾き掛けた頃、そろそろ帰ろうと立ち上がり振り向くと、いつからそこに居たのだろうか…緑の服に帽子、金髪に碧い瞳の青年がいた。
「あ、貴方っ、いつからそこに…?」
「んー、いつだったけな?それより、もう歌わないの?」
にっこりと、これまたなんとも言えぬ無邪気な笑顔で笑うもんだから、何だか恥ずかしくなって返事もせずに急いでその場を去る。
家に着くなり勢いよくベットへ飛び込み顔を埋める 。穴があったら潜りたいとはよく言ったものだ。
「な、何だったのさっきのは?!いつからあそこに…というか誰??!」
頭の中はつい先程の事でパニック状態。
「そうよ…何も無かった、何も無かったのよ!うん、それが良い、そうしましょ!」
「それは酷いじゃないか…」
「――!!!??」
そう思ったが束の間、声のする方を向けば先程の青年が窓から顔を出し、よっと、それは軽々と窓を乗り越えて家の中へ入って来たのだ。
「な、何よ貴方、てか不法侵入よ!」
「まぁまぁ、一応用があって来たんだから。」
そう言ってごそごそと取り出し手渡されたのは赤いリボン。
「あ…これ……」
「さっき君が落として行ったんだよ。」
このリボンはいつも髪を縛る時に使っていた物。
パニック状態で気付かなかったけど、縛っていた筈のリボンが無い。
「あ、ありがとう…」
「どう致しまして。まぁ、俺としては縛ってるのもいいけどその方が好きかも。」
そう言って笑う彼に思わずドクンと跳ね上がる私の心臓。
「じゃ、俺はこれで!」
扉に手をかけると、帰り際にこれまでにない笑顔と言葉を残して去って行った。
閉まった扉を前に、周りに聴こえてしまうのではと思う程に高鳴り止まらない鼓動と、更には身体中が熱を帯びたかの様に熱くなっていよいよおかしくなったかと思ってしまう。
それにしたはなんだろう…今まで経験したことの無いこの不思議な気持ちは…
ふっ…と鏡に目をやれば、真っ赤になった私が一人写っていた。
翌日、いつもの様に出掛ける準備をして、いつもの場所へと向かう。
「あら、なんかいつもと雰囲気違うわね。」
「そ、そうですか?」
すれ違い際に同じような事を何度も言われ、屋根の上に登ればすでに先客がいて、一目で分かる服を着た昨日の青年。
「おはよう。―あっ…」
何かに気付いたかのように声を上げ笑顔で言う。
「やっぱりそのほうが似合ってるよ!可愛い。どうしたの?」
「きっと貴方のせいよ…」
そう…この不思議な気持も貴方のせい
「そっか…ねぇ、また歌聴きたいな。今度は君の隣で…」
「お好きにどうぞ。」
風は今日も心地よく、彼女の手首に巻かれた赤いリボンを揺らしながら、歌声とまだ気付かぬ小さな恋心を優しく運んで行く。
君の歌声 凄く綺麗だったよ
(一緒に吹いてみてもいい?)
(お好きにどうぞ)
Fin...
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