旅の途中…
振り向けば、そこにはいつも暖かくて愛しい君の笑顔があった。
それがどんなに辛い時でも、君はただ静かに笑ってくれた。
そんな君の笑顔は、どんな声援や励ましよりも確かな勇気を与えてくれていたんだ。
しかし、そんな君はもういない。
初めからから存在しなかったかの様に、いくら振り向こうが探そうがそこには居ない。唯、虚しく風が吹き抜けるだけだった。それからというもの、俺の中の時間は止まったままで…。でも、世界は当たり前のように刻一刻と時を刻んでいく。勿論、旅だってまだまだ終わりじゃない。
「くそっ、どうしてあの時、俺は彼女を…」
***を護ってやることが出来なかった!?大切な人ひとり守ることも出来ないで、世界なんて救えるはずがない!!
堪らなくなって思わず木に拳を打ちつけた。血の滲む拳。こんなの、彼女の苦しみや痛みに比べたら…!もう一度拳を振り上げたその時、ふわっと頬を撫でる風に動きを止めた。
『リンク…』
この声は…***?そうだ、聴き間違えるはずがない!
逸る気持ちを抑え、ゆっくりと振り向く。―しかし、誰もいない。そうだ、彼女はもうここにはいない。いるはずがないんだ。
ただの勘違い…?でも、確かにあの声は…と視線を落とすと、そこにはポツポツと小さく膨らんだ花が咲いていた。
『私ね、いつかこの花でお庭を一杯にしたいんだ!』
「ああ…そうだったな」
誇らしげに語っていた***。
そこで、再び風が優しく頬を撫でた。
俺はなんて馬鹿だったんだろう。ごめん、ごめんな…
君はいつもそばにいてくれていたというのに、情けない姿ばかり見せて、心配掛けさせてごめん。
−サアァァァー…
風は、最後に俺の前髪を悪戯に掻き揚げて消えた。
いつまでもへこたれてはいられない。
涙をぬぐって前を向く。
「ありがとう…***」
止まっていた時間が再び動き出す。
今もまだ 変わらぬ愛を
(光を取り戻した世界 キキョウの種を蒔こう)
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