夢を見ていた。
赤く燃える赤髪の男と、夜空に煌く銀髪の男が睨み合い剣を交える。
そんな二人の戦いを私は震えながら見ていた。
初めこそ銀髪の男が優勢に立っていたが、それは赤髪の男が黒き魔法を使い始めた時より逆転していった。
次第に追い詰められ、もう駄目だというとき、銀髪の男は私に言った。
「心配は要りません...どうか、あなたは逃げて、そして生きて下さい」
「また、きっとどこかで会えますから…さあ!」
最後に見た儚い笑顔の向こうで、赤髪の男が邪悪に煌く刀身を振りかぶった…
「――………っ!」
少女が飛び起きる。
その体は汗まみれで、心臓がドキドキと早鐘を打ち止まらない。
夢に見た銀髪の男。今、確かに彼の名を呼ぼうとして出来なかった。名は何だったか…いくら名前を思い出そうとしたところで、答えは出ない。
「どう、してなの…」
私は確かに彼を知っている。大切な人だと心が叫んでいる。しかし、彼がどんな人なのか、どんな名前だったのか。
まるで、ぽっかりと穴が空いたように抜け落ちているのだ。
そして気付く。
彼だけではない。目が覚める以前の事、大切な部分が何もかも思い出せなかった。
ただ一つ、確かなのは……
『生きて下さい』
その一言だけが少女の心に重くのし掛かってくる。
重なるように赤髪の男の邪悪なる瞳が、嗤いがチカチカと脳裏に甦った。それはまるで呪いのように、消えることはなく恐怖が沸き上がる。
いよいよ、泣いてしまいたい。
そんな時……
「あ、目が覚めたんだね!」
明るくて無邪気な声が少女に投げ掛けられた。
ハッとして顔を上げると、少年がパタパタと駆け寄ってくる。
「だいじょうぶ?痛いところはない?」
「だ、大丈夫です…。」
よかったと胸を撫で下ろす緑衣の少年。
陽に輝く金髪が眩しく、その下には蒼く透き通るような瞳。例えるなら青空のような少年だった。
不思議な話だが、何故だか彼を見ていると先程までの恐怖が無かったように安心した。
単に一人では無くなったからなのか、何なのかは分からない。
「おれはリンク。おどろかせてゴメンネ。」
「い、いえ…。」
いまだ現況を掴めてないのか、困惑し続ける少女。
「森にたおれていたのを覚えてない?」
「森に……?」
必死に少ない記憶を探る。
「まぁ、いろいろと聞きたいこともあるだろうけど、まずは朝食でも食べようよ!3日も寝てたんだから、何か食べなきゃ!」
「3日も…?!で、でもーーー」
―ぐぅ〜
「ね?」
「は、はい…」
腹の虫は正直なもので、やがて顔を赤らめて席につく少女に、リンクは温かいミルクを差し出した。