たまたま、たまたまだ。
花澤が話し掛けてきたのを適当にあしらうこともせずちゃんと相手してやっていた。そしたら何か、後ろから視線を感じた。
ちらりと見ると斜め後ろの席の神崎がヨーグルッチのストローをくわえたままでこっちをガン見している。
むすっとした顔だった。
どうやら俺が花澤と会話しているのが気に喰わないらしい。
でもプライドや周りの目が邪魔して言いだせなくて睨むことしかできない。
神崎の心情は手に取るようにわかる。
じっと俺を見つめる視線を背中にひしひしと感じて、心が踊った。
( 無言の視線がくすぐったい )
話すだけ話して満足したらしい花澤が自分の席に戻る。何だかんだで長いこと相手したから疲れた。コーヒー飲みてぇ。そう思って教室を出た。
授業時間だが不良にそんなもん関係ない。まず授業自体まともなのはない。
今だって黒板に「自習」の文字がでかでかと幅をとっているのだから。
静かな校舎を自販機目指して歩く。上履きの音が反響して耳に入ってくる。
かつかつ、ぺたぺた、俺の足音じゃないものが交ざっていたが、誰だと気にはしなかった。
誰、なんてそんなこと俺にはわかっていたからだ。
ちょっとだけ歩くスピードを緩める。
ぺたぺた。らしい足音が少しずつ近づいてくるのにニヤケそうになるのを必死に堪えた。
角を曲がって、その瞬間服が引っ張られる感触に足を止めた。
( 裾を摘んでくる指先 )
「神崎?」
振り返れば思った通り、神崎が服を掴んでいる。
むっと拗ねた顔してぎゅって指が白くなるくらい力込めて握っちゃって。
まったくもってわかりやすい。
「そんなに妬いた?」
そう聞いた途端神崎はぴくんと肩を震わせ目を見開き頬を赤く染めた。それを誤魔化すように、わたわたと慌てて反論してくる。
「ち、ちげーよ、これは、あれだヨーグルッチ奢れって、そういうのだ!馬鹿!」
「そうかよ……ククッ」
嘘ばっか。
ばればれだっつーの。
( 尖った唇がその証 )
この日学校が終わってから俺の部屋に神崎が来た。
いつも互いにソファの端と端に座る……のだが。
そのいつもある距離がないんですけど。
肩が触れてるんですけど。
神崎の手が俺の手の上に重なってるんですけど。
何か近くね?と言ってみたら「気のせいだろ」と返ってきた。いや、全然気のせいじゃないだろこれは。
嬉しいけどな!
( 密着度三割増し )
「なあ」
「……なんだよ」
「お前ってさー、俺のことすげー好きだろ」
神崎を抱き寄せて肩に頭を擦り寄せ、鎖骨らへんに唇を落とす。
そのまま押し倒して、さっきの答えを促すように目を合わせた。
数秒か数十秒か。
神崎の瞳が僅かに逸れる。
ああまったくもう。
( 答えは「別にっ」 )
顔真っ赤にして言われても説得力ねーよ。
愛されてるなあ、俺。
title:Chien11
「可愛らしい嫉妬で5題」