頬を叩かれる感触に目を覚ますと見慣れない生き物がいた。

「やっとおきたな……おせーぞばか」

「……え?」

俺の上に跨がって顔を見下ろしてくる生き物。それは4、5才くらいの子供だった。
肩甲骨あたりまで伸びた珍しい銀の髪にくりくりっとしたまあるい目、ほんのり赤く染まったほっぺはふっくらしていて柔らかそう。
それにしてもなんでこんな子供がここにいるんだろうか。ここは姫川のマンションの姫川の部屋で室内には俺と姫川の二人だけだったはずだ。
いつ入ってきたんだ、姫川が招き入れたのか?
そういえば姫川の姿が見当たらない。どこにいったんだ。

「おいガキ、そこどけ。あともう一人銀髪の奴いただろそいつどこいったか知ってるか?」

「そのぎんぱつのやつだけど」

「は?」

いやまあ確かに同じ銀髪だけど。俺が言っているのはお前みたいなガキのことじゃなくて、俺と同じ年齢の男だ。
そう言ったら、だから自分がそうで朝起きたらこうなっていた、俺が姫川だ、と舌っ足らずな口調でご丁寧にこれが証拠だと言わんばかりに俺と姫川しか知らないガキの口からは聞きたくないあれやこれやをまくし立ててきた。
うわあ、まじか。

「えっお前、姫川…!?」

「だからさっきからそういってんだろ!なんだもっといったほーがいいのか!?じゃあきのうのよるどんなぷれいしたか」

「だあああわかったわかった!ガキのなりでそんなこと喋んじゃねーよ!!」

あられもないことをさらに言おうとするガキの口を慌てて手で覆う。
かわいらしい容姿からそんなのはもう聞きたくない。

「姫川、か…姫川なのか……そうか……」

口を覆っていた手のひらを外して、改めてじっとガキを見つめる。
姫川、といわれれば確かに似ている気がしなくもない。銀髪だし、ムカつくけど整った顔立ちしてるし。これが成長してやつになるのを想像して納得……いや、うん、納得……出来ない。

「ふざけんな!」

「は!?」

「んなかわいい顔してんのに将来あんなモサヌメになるなんて……」

「おかすぞ」

「だからガキの口でそーいうこというなあああ!」

性格は間違いなく姫川だ。






「はあ……」

頭が痛い。疲れた。なんて最悪な目覚めなんだ。
盛大に深いため息を溢すと、ちび姫川があどけない仕草でこちらを見上げてくる。

「なんか、あんま動じてねーんだな……」

「あ?」

「いや、普通慌てるだろ。なのによ、」

そうだ、俺が起きた時からこいつはいつも通りだった。
こんな朝起きたらちっさくなっていたなんてあり得ない異常事態。なのにだ。

「ああ、おきたときはびびったぞ?でももどりかたもなにもわかんねえし、へたにさわぎたてねえほうがいいかとおもってな」

いえのやつにばれたらこまるし、と小声で続けた姫川の言い分にそれもそうかと納得した。
慌て騒いだところで戻るわけでもなし、騒いだことで家の奴(特にあの執事)にばれて大事になったりなんかしたら余計面倒なことになるのが目に見えている。

「とりあえず今日一日様子をみる、か」

「ああ」

それくらいしか出来そうもないし、な。





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